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本間合同法律事務所
弁護士・税理士 坂 田 真 吾

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民事信託(家族信託)の活用方法と課税関係(その4 課税関係)
(h29/6/5更新)

はじめに

 

 今回は,信託の課税関係を見ていきます。

 大きく,受益者課税信託,法人課税信託(法人型課税信託,受益者不存在信託),集合的信託に分類され,それぞれで課税関係が異なります。

 信託課税の原則は,次の受益者課税信託です。

民事信託の実務では,基本的には,受益者課税信託を理解していればよいです

 ただし,法人課税信託の一類型である受益者不存在信託のように民事信託でも留意すべきものがあるので,以下では,上記分類毎に課税関係を概観します。    

原則(受益者課税信託)

  1.  受益者課税信託とは

    その2で見たように,信託によって実際に経済的な利得を得るのは,受益者です。受託者は名義上,形式上は信託財産の所有者になりますが,実質的には受益者が所有者です。 

     課税関係は,経済的実質に従って組み立てられますので,原則として,受益者を中心に見ることになります。
     すなわち,信託財産に帰属する資産,負債,収益及び費用のすべてが受益者に帰属するものとして課税関係を構築することとされており(所法13条1項,法法12条1項),これを受益者課税信託といいます。

     なお,例外として,みなし受益者(所法13条2項,法法12条2項。相続税法では「特定委託者」(相法9条の2第5項)という概念があります。信託変更権限があり,信託財産の給付を受けることとされている者をいい,この場合には,当該みなし受益者に実質的に所得が帰属するという発想です。(このことから,受益者課税信託は,受益者「等」課税信託ともいわれます。この「等」はみなし受益者(特定委託者)のことです)
     
  2.  設定時

     信託の設定時については,まず,自益信託(委託者=受益者)では,信託財産は移転していないことになるので,課税関係は生じません

     一方,他益信託(委託者≠受益者)では,信託設定時に,信託財産が委託者から受益者へ譲渡されたとして課税されます。
     
  3.  終了時

     信託の終了時においては,終了直前の受益者から残余受益権者等へ残余の信託財産が贈与等されたものとして課税されます(所法67条の3第6項,相法9条の4第4項)。
     
  4. 受益者の変更

     受益者の変更があった場合には,受益者間の譲渡,贈与(相法9条の2第2項,3項,所法67条の3第4項,5項)があったものとして課税されます。

     なお,受益者が連続する信託(受益者連続型信託)では注意が必要です。

     たとえば,委託者A(信託財産100)の相続人である受益者B,C,Dが,順に受益権を取得し,途中途中で費消する場合,相続税は,B100,C50,D20,というようにかかることになります(相続税法9条の3「受益者連続型信託の利益を受ける期間の制限その他の当該受益者連続型信託に関する権利の価値に作用する要因としての制約が付されているものについては,当該制約は,付されていないものとみなす。」)。

     したがって,信託の内容によって,Bがはじめから50しか得られないことが定まっている場合にも,Bについて100に係る課税をすることになります。

     いわゆる後継ぎ遺贈型の信託を設定する場合には,多段階でむやみな相続税課税がなされないように注意が必要です。
     
  5.  信託期間中

     信託期間中の所得は,受益者に帰属します(所法13条1項本文,法法12条1項本文)。
     

法人課税信託(法人型課税信託)

  1. 法人型課税信託とは

     信託財産が,あたかも法人を擬制するように課税関係を構築するものです。

     平成19年税制改正前は「導管理論」という考え方によって,信託は信託財産に帰属する収益,費用を伝える導管(パイプ)のようなものであり,導管自体に所得が止まることはないという立法によっていました。

     この考え方は上記税制改正によって修正され,導管自体に所得が生じるものとして課税する場合が設けられました。それが法人課税信託です。

     法人課税信託は,その典型例である「法人型課税信託」と,受益者が不存在の場合の「受益者不存在信託」に分類されます。
     
  2.  法人型課税信託の例

     法人型課税信託の例には次のものがあります(法法2条29号の2 イからホのうち,ロ(受益者不存在信託)以外)。

    ア    信託を用いて実質的に法人に類似した経済活動が行われる場合
      受益証券発行信託(イ),投資信託(ニ),特定目的信託(ホ)

    イ     法人が事業の重要な一部を切り出して信託を設定するような場合(ハ)(租税回避への対処措置という性格があるといわれています)
     
  3.  設定時

     法人課税信託では,信託について,「受託法人」を擬制します(受託者が個人であっても,「受託法人」を擬制します)(所法6条の3,法法4条の7)。

     そこで,信託設定時には「受託法人に対する出資があったものとみなす」とされています(所法6条の3第6号,法法4条の7第9号)。受益権は原則株式又は出資とされます(所法6条の3第4号,法法4条の7第6号)。
     
  4. 終了時

     終了時には,受託法人の解散として課税関係が組まれます(所法6条の3第5号,法法4条の7第8号)。
     
  5.  信託期間中

     信託期間中には,信託レベルで損益が計算され,その所得に対して法人税が課税されることになります(所法6条の2,法法4条の6)。

     受益者への収益の分配は配当(資本剰余金の減少に伴わない剰余金の配当)となります(所法6条の3第8号,法法4条の7第10号)。

受益者不存在信託

  1. 受益者不存在信託とは何か

     受益者が存しない信託をいいます(法法2条29号の2ロ)。

     たとえば,「いずれ生まれる孫に財産を承継させる信託を設定する」ことは,受益者が存しないので,受益者不存在信託となります。

      条文上,法人課税信託の一類型とされていますが,実質的には,将来の受益者に対する相続税や贈与税の代替課税であるといわれます。
     
  2. 設立時

     受益者が存在しないから,株主等がいないのと同様であり,他の法人課税信託のように現物出資とは考えません。

     そうすると,信託を設定して委託者Sから受託者Tに資産移転があった場合の課税関係は次のようになります。

      まず,Sについては,受託法人に対する贈与(所法6条の3第7号)となります。Sが個人の場合,みなし譲渡所得(所法59条)が発生することがあります。

     Tについては,受託法人に対する贈与があったとして法人税課税とされます(所法6条の3第7号)。ただし,受益者等となる者が委託者Sの親族であるときには,相続税・贈与税(相法9条の4第1項)が課され,法人税等は控除することとなります(同4項)。

      Tについてこのように相続税等が課税される理由は,その後存在することとなる受益者等に代わって課税されるからであるという考えがあるからです(DHC相続税法コンメンタール1089の4頁)。

      ここから,受益者不存在信託は,相続税,贈与税の代替課税であることが読み取れます。
     
  3.  終了時,信託期間中

     信託終了時には,法人課税信託の一類型なので,解散となります。

     また,信託期間中の課税も,法人課税信託の一類型なので,受託法人に対する法人税課税となります。
     
  4. 過大な課税リスク(通常の相続,贈与と比べて)

     「いずれ生まれる孫に財産を承継させる信託を設定する」場合(受益者不存在信託)と,通常の相続,贈与によって孫に財産を承継させる場合とでは,前者の方が重い課税となるリスクがあります。

     まず,受益者不存在信託の場合には,相続税に係る基礎控除,配偶者税額軽減等の適用がありません。

     また,受益者不存在信託の場合には,設定時に受託法人に贈与したこととなるため,キャピタルゲイン課税が相続,贈与によって繰り延べられず,みなし譲渡課税がなされます。

集合的信託

 

  1.   集合的信託とは,資産の運用のための信託につき,適正な課税繰延制限を前提として,信託レベルでの課税を排除し,現実の分配時に受益者に課税されます。
     
  2.  その例としては,集団投資信託(所法13条3項1号,法法2条29号), 退職年金信託(所法13条3項2号,法法12条4項1号)があります。
     
  3.  集合的信託では,信託財産に帰属する資産・負債・収益・費用を受益者に帰属するものとみなすルールの適用はなく(所法13条1項但書,法法12条1項但書),他方で,これらの信託を受託する法人の資産等ではないものとされます(法法12条3項)。

     結局,信託財産に帰属する収益等は信託財産にとどまる限り,「誰のものでもない」収益等とされ,一種の課税繰延となります。そして,現実に受益者に分配される際に課税されます。

終わりに

  •  以上のように,信託を巡る課税関係は,所得税法,法人税法,相続税法について横断的に規定されており,かなり複雑です。
     
  •  実際的な注意点は,次回以降の実例を見る際に言及します。
     
  •  なお,課税関係については,『信託税制の体系的研究―制度と解釈』(日税研論集VOL62)において詳しく論じられています。
     民事信託との関係では,特に次の箇所を読むと理解が進みます(本稿でも多く引用等させていただきました)。
    (1)    佐藤英明「新信託法の制定と19年信託税制改正の意義」(37頁以下)
    (2)    渡辺徹也「受益者等が存しない信託に関する課税ルール」(171頁以下)
    (3)    渋谷雅弘「受益者連続型信託について」(199頁以下)