弁護士による税務紛争対応(再調査の請求・審査請求・税務訴訟,税務調査)
 

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本間合同法律事務所
弁護士・税理士 坂 田 真 吾

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税務紛争手続

再調査の請求

 課税処分がなされた場合,直ちに裁判所に訴訟を提起することはできず,行政上の不服申立手続を経る必要があります(「不服申立前置主義」といいます)。

 不服申立は,①税務署長等に対する再調査の請求,②国税不服審判所長に対する審査請求の二種類があります。平成26年6月の国税通則法改正により,不服申立手続が全体的に改正されました。平成28年4月1日以降になされた課税処分については,従前と異なり,再調査の請求を経ないで審査請求を行うことが可能となりました(従前は、原則として異議申立て(現在の再調査の請求)を経てから審査請求をする必要がありました)。

再調査の請求手続の概要

  1.  再調査の請求は,
     ①処分があったことを知った日の翌日から3ヶ月以内
     ②税務署長(ないしは国税局長)に
     ③再調査の請求書を提出して
    行う必要があります(国税通則法77条,81条)。
     
  2.  税務署長等(この場合「再調査審理庁」といわれます)は,再調査の請求に対して,再調査決定書を出すことになります(国税通則法83条,84条)。

     ただし,実務上,税務署長は,再調査の請求に理由があると認めた場合には,再調査の請求決定で原処分を取り消すのではなく,原処分を自ら取り消して終了させる,という取扱もまま見受けられます(この場合,なぜ取消しがされたかの理由は,書面に記載されません)。
     
  3.  再調査の請求から再調査決定までの期間は,法律上定められていませんが,通常は3ヶ月以内程度と言われています。

再調査決定による取消しはどの程度あるのか

  1.  再調査の請求の処理状況については,国税庁が報道発表資料を公表しており,年度によって異なりますが,概ね,次のような処理割合となっています。
     ① 棄却  65%程度
      (納税者の言い分が認められない)
     ② 却下  10%程度
          (期間を徒過した等,そもそも申立ての要件を満たさない)
     ③ 取下げ 15%程度
     ④ 認容  10%程度
      (納税者の言い分を認めて原処分を取り消した)
     
  2.  認容は10%程度であり,そのほかにも,税務署長が原処分を自ら取り消した場合には,取下げ又は却下となりますので,概ね,1割から2割程度,納税者の言い分が認められていることになります。

再調査の請求を行う意味

  1.  再調査の請求は,処分を行った税務署長等に,再度,処分の見直しを求める手続です。

     したがって,結論は変わらないだろうから,再調査の請求を行う意味があるのか?という疑問も生じるところです。現行法では,再調査の請求をしないで直接審査請求を行うこともできるようになったので,再調査の請求を行うべきか否か,悩ましいこともあります。

     私としては,ケースバイケースですが,再調査の請求には次の意味があると考えております。 
     
  2.  まず,結論として納税者の言い分が認められなかったとしても,その根拠がある程度詳しく再調査決定書に記載されます。

     すなわち,再調査決定書には,
     ① 処分が根拠とした法令,通達,裁判例
     ② 処分が根拠とした事実関係,証拠の内容
     ③ 計算過程
     などが記載されます。

     課税処分の段階では,処分の理由は記載されたとしても,ごくあっさりとしたものに留まりますので,特に,税務署側がいかなる証拠に基づいてどのような事実があると認識しているのか,はっきりしない場合も多くあります。

     そのような場合には,再調査決定書で税務署側の認識を明確にさせ,次のステップ(審査請求)でそれに対する防御方法の準備をするためにも,再調査の請求を行う意味があります。
     
  3.  次に,上記の統計からしても,私の実感としても,それなりに再調査の請求で納税者の言い分が認められることはある,ということがあります。この場合,税務紛争は,3ヶ月程度で(場合によってはもっと早く)解決することになります。

     特に,調査段階で納税者側が十分に法的な主張,事実関係の主張,証拠の提出をできておらず,肝心の争点が議論されないままに処分がなされたような場合には,課税庁としても十分な検討ができていないままに処分を行っているので,再調査の請求であらためて提出された主張,証拠を見て,処分の維持を断念するケースがあります。十分な調査をする暇無く行われることが多い第二次納税義務の納付告知処分などでは,このようなケースがままあるのではないかと推察されます。

     「税務署側に,(特に事実関係に)調査,検討が不十分な点がある」と思えるケースでは,早期解決のためにも,再調査の請求を行い,積極的な主張,立証を行うべきでしょう。
     
  4.  また,税務署側が,処分はしたものの,やはり悩ましいと考えているケースもありえます。

     こういった場合に,納税者側から再調査の請求で相当に説得力のある主張,立証がなされると,税務署側としては,審査請求や税務訴訟で原処分を維持するのは困難ではないか,と考え直すこともあります。税務署としても,自分の手を離れ国税不服審判所や裁判所で取り消されるくらいであれば,自ら原処分を取り消しておこうという発想に至ることもありますので,このような場合にも,再調査の請求を行う意味があります。
     
  5.  一方で,税務調査段階で,事実関係,争点もかなり明らかになっており,税務署,国税局の見解がはっきりしているような場合(とても考え直すとは思えない場合)には,あえて再調査の請求は行わない,という選択肢もあります。
     
  6.  再調査の請求でどのような主張,立証を行うのかは,以上述べたような,当該案件において再調査の請求を行う意味を踏まえて考える必要があります。

再調査の請求でどのような主張,立証を行うか

  1.  税務署側の処分の根拠となる法律解釈や事実認定がはっきりしない場合には,それを明らかにさせるために再調査の請求を行うという程度の意味しかもたないので,再調査の請求の主張も簡単なものにならざるを得ません。
  2.  一方で,税務調査段階での交渉等で,税務署側の見解が相当に明らかになっている場合で,早期解決を目指す場合には,再調査の請求において,積極的に原処分の不当性,違法性を主張するべき場合が多いです。

     その場合,どのような紛争でも言えることですが,可能な限り早期にしっかりとした主張と証拠をそろえることが肝要です。再調査の請求後,早い段階で,「なるほど」という印象を与えることができるかどうかは,事実上,審理に強い影響を与えます(裁判においても,裁判官は,訴訟の初期段階で提出される訴状,答弁書等を見て,大まかな心証を形成することが指摘されています)。

     そのためにはどうすればよいか。
     まず,税法の解釈,適用が問題となる事例では,法的な主張を整然と行い,法的理解が十分であることを示すことです。単に条文,通達,実務上の取扱を漫然と述べるだけではなく,所得税法,法人税法,相続税法等の根本的理解を前提に,当該論点に係る条文の文言,条文の趣旨,過去の類似事案の判例・裁決,判例・裁決の射程距離の分析,通達の文言や,課税庁が当該通達の趣旨をどのように考えているのか等を踏まえる必要があります。

     課税処分がなされる前には,通常,税務署内及び国税局内の審理担当者(調査担当者とは異なります)によって,処分が税法的に適法か否かの検討が行われています。そこでは,一般的に,関係のある条文,判例,通達は検討されていますが,限られた人員,時間で行っていることもあって,常に正当な解釈,結論に至っているというわけではありません。そのような場合には,法的主張を徹底的に行うことが効果的と言えます。

     次に,事実の存否が問題になる事案では,事実関係や証拠関係を早い段階で確定させておくことが肝要です。特に,税務調査段階で税務署側が把握していない事実,証拠については,可能な限り早期に整理し,提出する必要があります。早期に容易に提出できたはずなのに,審査請求,訴訟で後出し的に提出をすると,そのこと自体で信用性が低くなってしまう場合もあり得ます。少なくとも,課税庁の職員は,後出しの証拠をかなり懐疑的に見る傾向があります。

     事実や証拠の提出は,一見簡単なように見えて,創造的な作業であるというのが弁護士の多くが一致するところです。事実は一つでも,見方によって何通りもの説明があり得ます。
     たとえば契約書の文言は,契約書の作成経緯を抜きに解釈することができない場合がありますが,どのような事実関係が契約書作成の背景にあったのかをストーリーをもって説明することで,契約書の見え方が変わってくることがあります。また,常に,当方の主張に対する反論を考えながら事実,証拠を吟味することも重要です。一定の反論が想定される場合には,それを先回りして説明しておくことで,事実の説明の確からしさが補強されます。
     
  3.  再調査の請求でどのような主張,立証を行うかは事案に応じて千差万別なので,とてもここで語り尽くすことはできませんが,いずれにせよ,何の為に再調査の請求を行っているかを常に意識しながら進める必要があるでしょう。
     
  4.  なお,「他に調査を受けた事案ではこうだ」とか,「これまでこんな指摘を受けたことはない」式の議論(法律ではなく経験に力点を置く議論)は,ときとして税務職員の常識に訴えて効果を持つことはあると思いますが,それでは税務職員が納得しないから処分がなされているはずなので,再調査の請求段階ではさほど有効な主張にはならない場合が多いと考えます。

     また,「過去の照会事例やQAにこのように書いてある」式の議論は,一見もっともらしく聞こえるのですが,税務署側が当該照会事例等はこの事案に適用されないと考えているから処分がなされているはずですので,そのような議論だけでは水掛け論に終わります。したがって,なぜ,当該照会事例と同様に本件を考えるべきかを理由を付けて説得する必要があり,そのためには,法律や法律の趣旨に遡って説明しなければなりません。

再調査決定後はどうすればよいか

  1.  再調査決定で納税者の申立てが認められれば,原処分は取り消されますので,そこで終了です。
     
  2.  納税者の申立てが認められなければ(棄却),審査請求を行うかどうかを検討することになります。