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本間合同法律事務所
弁護士・税理士 坂 田 真 吾

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民事信託(家族信託)の活用方法と課税関係(その5 【事例1】死後の親族の福祉のための信託)
(h28/8/2更新)

はじめに

 今回から,実際に信託をどのように活用するのか,具体的な事例で見ていきます。 

事例1

  • 夫Sは,自分の死後,認知症の妻Bの生活を心配している。
  • 子供は長女Tと長男Cがいる。
  • 長女Tはしっかりしているが,長男Cは浪費家で,これまでも度々親にお金を無心している。

 という事例で考えてみます。

 

従前の解決方法と問題点
 

  この事例1について,民法等を使った解決として次のようなことが考えられますが,問題も残ります。

  1.  Bに預貯金を承継させる

     Bの生活が心配なのだから,遺言でBに預貯金を相続させるというのがまずは素直な方法です。

     ただし,この事例では長男Cが度々親にお金を無心しています。預貯金通帳や印鑑を長女Tが管理することで事実上浪費を防ぐことができるかも知れませんが,Cが強く無心してBに預貯金の解約等をさせてしまえば管理は難しくなります。

     Bについて成年後見を申し立てるということもあり得ます。ただ,その場合には,財産運用が家庭裁判所の管理下で硬直的になるという嫌いがあります。
     
  2. Tに負担付で遺贈する。

      長女Tに預貯金を遺贈し,その負担として,TがBの身の回りの介護等をすることとする,という方法もあるでしょう。この場合,預貯金の名義もTになるので,Cがこれを浪費するリスクはありません。

      ただし,相続税計算上,負担付遺贈で控除できる額は遺贈時に確実な金額に限定されます(相続税基本通達11の2-7)。そうすると,Sの相続後,Bに想定以上の高額な介護費用を要した場合には,上記のようにBに預貯金を相続させて,Bの財産として費消した場合と比べ,一次相続・二次相続を合算した税額が過大となってしまう可能性があります。

 

 

信託による解決

 そこで,次のように信託を使ってはどうでしょうか。

  1. 信託契約の設定

    Sを委託者,Tを受託者とする信託契約を設定します。当初受益者はSとします。

    この信託契約により,預貯金の名義をTにします(金融機関で信託口座を開設します)。

    自益信託なので,設定時には課税関係は生じません。
     
  2. S死亡時

     Sの死亡によって,第二次受益者をBとします。遺言のように受益者が異動するので,「遺言代用信託」といわれます。

     受託者はTのままなので,引き続き信託口座は名義人であるTが管理します。

     この段階で,SからBに相続があったものとして相続税課税(一次相続)がされます。
     
  3. B死亡時

     B死亡によって,信託が終了し,残余財産は子であるTとCに帰属するようにします。

     この段階で,BからT,Cに相続があったものとして相続税課税(二次相続)がされます。
     
  4. 信託のメリット

     以上の方法ならば,成年後見を行わずとも,Sの死亡後も財産をTが継続的に管理することができるのでCがこれを費消等するリスクを防止し,また,Bの介護費用に要した分は信託終了時までに費消されるので,残存した金額にのみ相続税課税(二次相続)がされます。

信託契約書の例

以上の信託を簡単に信託契約書にすると,次のようになります。

 

(信託契約書)

 委託者Sは,受託者Tに対し,第1条記載の信託の目的達成のため,第2条記載の財産を信託財産として管理処分することを信託し,受託者Tはこれを引き受けた。

第1条 信託の目的

 本契約は,後記信託財産の管理活用,その他本信託目的の達成のために必 要な行為を行い,受益者の幸福な生活の支援と福祉を確保し,かつ同財産を適正に管理して資産の円満な承継を図ることを目的とする。

第2条 信託財産

1 本契約に定める信託財産は,後記信託財産目録(略)記載の信託預金債権(信託金融資産の利息配当があった金銭をも含む。),***(その他信託財産)とし,次項のとおり管理活用しまたは処分するものとする。

2 信託財産の管理運用(活用)及び処分は,次のとおりとする。

(1)信託預金債権については,信託財産にかかる公租公課,その他の経費等の支弁に充てるとともに,受益者の生活費,施設利用費等の支払いに充てるものとする。

(2)(その他信託財産)

第3条 受託者

本件信託の受託者は,Tとする。

第4条 受益者

1 本件信託の当初受益者は,Sとする。

2 本件信託の当初受益者の死亡した後の第二次受益者は,Bとする。

第5条 信託期間

 本件信託は,本契約締結の日から効力が発生し,次の事由によって終了する。

(1)当初受益者S及び第二次受益者Bの両名とも死亡したとき   

(2)信託財産が消滅したとき

第6条 残余財産の帰属

残余の信託財産については,次の権利帰属者に次の内容で給付する。

(1)(帰属権利者) T 

  (給付の内容)残余の財産の2分の1

(2)(帰属権利者)C

  (給付の内容)残余の財産の2分の1

小括

 以上のように,信託を用いると,民法では十分な解決ができないニーズに柔軟に答えることができるということが分かると思います。