信託の特殊性から,信託には次のような機能があると整理されています(以下,新井誠『信託法(第3版)』(有斐閣,2008)85頁以下の分類にそって,一部私見も加えました。)。
- 財産の長期管理機能
信託によって,信託財産を長期間にわたって委託者の意思の下に拘束する機能です。さらに次の4つの機能に細分化されるとされています。
ア 意思凍結機能
設定時の委託者の意思を,委託者の意思能力喪失や死亡という事情の変化にかかわらず,長期間にわたって維持するという機能です。
委託者がいなくなっても受託者が信託財産を信託目的にそって維持管理することから,高齢化社会における財産管理制度として信託の利用が有効であると説かれます。
なお,いったん信託を設定すると,委託者自身もこれを撤回,変更できなくすることも可能です。第1回でのべた,撤回不能型の遺言代用信託(信託で後の受益者を指定すれば,後に勝手に委託者が受益者を変更できないもの。これにより,遺言では実現できない撤回不能な財産承継を行うことができる)は,このような意思凍結機能の現われと言えると考えます。
イ 受益者連続機能
信託では,受益者を複数指定して連続して受益権を帰属させることができます。たとえば,当初受益者Aの死亡後はB,Bの死亡後はCというように定めることが可能です。これにより,民法上は理論上不能と言われている後継ぎ遺贈型の財産承継も可能と解されています。
ウ 受託者裁量機能
信託で受託者が有する権限は信託目的に拘束されますが,受託者に幅広い裁量権を与えることも可能です。
同じように財産管理を本人ではなく他者に行わせる成年後見制度と比較すれば分かりよいかと思いますが,成年後見の場合は財産管理処分に裁判所の強い監督が及ぶのに対し,信託では,受託者に広い裁量を与えることが可能です。
エ 利益分配機能
信託は,終局的には,当該信託の元本,収益を受益者に帰属させることとなり,利益を受益者に分配する機能があります。
- 財産の集団的管理機能
信託には,個々の委託者から信託された特定の信託財産を個別的に管理する形態のほか,不特定多数の委託者から拠出された財産を,一つのまとまった集団として一括して管理運営するという形態があります。
今回取り上げている民事信託,家族信託は前者の例ですが,ビジネス上の観点から用いられる商事信託は後者の例といえるでしょう。証券会社の投資信託は,後者の典型例です。
- 私益財産から公益財産への転換機能
信託によって,私的な財産を広く公共の利益のために活用される公益財産に転換することもできます。
- 倒産隔離機能
信託を見るときに非常に重要な機能です。
信託財産は,信託設定後は委託者のものではなくなります。また,受託者の固有の財産でもありません。
信託財産は,誰のものでもない財産であるということで,Nobody’s propertyと言われることがあります。
その結果,受託者個人の債権者は受託者名義となっている信託財産を差し押さえることはできませんし(信託法23条),委託者が破産しても信託財産は委託者の破産財団に属しませんし,受託者が破産しても,信託財産は破産財団に属しません(信託法25条)。
このように,信託財産は,関係者の倒産から隔離されているのです。