弁護士による税務紛争対応(再調査の請求・審査請求・税務訴訟,税務調査)
 

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本間合同法律事務所
弁護士・税理士 坂 田 真 吾

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税務紛争手続

審査請求

 再調査の請求を行わずに直接不服申立を行う場合や,再調査の請求をしたが主張が認められなかった場合には,国税不服審判所長に審査請求を行うことになります。

審査請求の概要

  1. 審査請求は,
    ① 再調査決定書の謄本の送達があった日の翌日から1ヶ月以内
    ② 国税不服審判所長に
    ③ 審査請求書を提出して
    行う必要があります(国税通則法75条,77条,87条)。なお,再調査の請求を経ない直接審査請求の場合には,処分があることを知った日の翌日から3ヶ月以内に行う必要があります。
    具体的な提出先は,国税不服審判所の各支部(東京支部,大阪支部など)です。
     
  2. 審査請求に対しては,原則として1年以内に裁決がなされます
     
  3. 裁決で原処分が取り消された場合には,再調査決定で原処分が取り消された場合と同様に,課税庁はそれ以上争うことはできません(裁決の拘束力。国税通則法102条)。

審査請求による取消しはどの程度あるのか

 審査請求の処理状況については,国税不服審判所が公表しており,年度によって異なりますが,概ね,次のような処理割合となっています。

① 棄却  70%程度
 (納税者の言い分が認められない)
② 却下  10%程度
 (期間を徒過した等,そもそも申立ての要件を満たさない)
③ 取下げ 10%程度 
④ 認容  10%程度(全部認容と一部認容の割合は概ね1:2)

審判所ではどのように審理が進められるのか

  1.  審査請求では,再調査の請求とは異なり,請求人(納税者)と原処分庁の双方が,書面を出し合います。請求人としては,提出した審査請求書に対する反論が原処分庁による答弁書に記載されるので,さらに主張書面を提出して再反論をすることになります。

     ここまでは,裁判手続とかなり似通った面があるのですが,以下のように,証拠の取扱,審理方法等において,審判所は裁判所とは大きく異なる面があります。
     
  2.  原処分庁が審判所に提出した証拠については,次のとおり取り扱われます。
    国税通則法の改正により,(2)の審判所職権収集証拠についても,請求人の閲覧が認められることとなりました(改正後の国税通則法97条の3)。また,これまでは認められなかった「謄写」も認められます。


    (1) 原処分庁任意提出証拠(96条証拠
      原処分庁は,処分の理由となった事実を証明する書類その他の物件を審判所に任意に提出します(国税通則法96条)。


    (2) 審判所職権収集証拠(97条証拠
      原処分庁にある証拠でも,審判所が職権で提出を求めて提出がされることがあります(国税通則法97条)。
     従前の通則法では,当該証拠については,閲覧できませんでしたが,現行法では閲覧,謄写をすることができます。

     ただし,原処分庁が審判所に提出をしていない資料については請求人は閲覧も謄写もできません。刑事裁判でいう証拠開示の問題(検察官が手持ちの証拠を開示しないという問題)が税務でもあるということです(このことに関連する問題についてご興味があれば拙稿をご参照下さい)。
     
  3.  事件調査,審理は,合議体,すなわち,担当審判官1名,参加審判官2名で行うこととされます(国税通則法94条)。

     実際には,担当審判官と,審判官以外の若手の職員(審査官)らで,請求人や関係人の面談,調査,文書作成等が行われています。

     合議体の行う「議決」に基づいて,審判所長の「裁決」がなされます(国税通則法98条)。

     実際には,多くの支部で,合議体の部とは別の審理部(法規審査部)という組織があり,合議体の構成員らと協議しながら事案の審理が進められます。
     このように,裁決がされるまでには,審判所内部で多くの職員が関与します。
     
  4.  担当審判官には,審理を行うため必要があるときは,職権で相当の調査を行う権限があります(国税通則法97条)。

     そして,権限があるだけでなく,実際にも,相当の深度のある職権調査が実施されることがあります。たとえば請求人が提出した主張を裏付ける証拠を請求人側で収集することが出来ない場合(他人の預金履歴など)には,審判所が積極的に職権で収集すると考えられます。

     裁判手続では,裁判所は基本的に当事者双方の提出した証拠をもって判断し,自ら調査や証拠収集を行いませんが,審判所は全く違うということです。

     *国税不服審判所の実務運用については,判例タイムズ社『国税不服審判所の現状と展望』に詳しく紹介されています。

審査請求ではどのような主張,立証を行うか

  1.  審査請求段階では,再調査の請求段階と異なり,再調査決定書や原処分庁の答弁書で,原処分の理由や認定した事実関係が,かなり明確になっています

     課税処分等では,処分を適法とするための事実(課税要件事実)の主張,立証責任は原則として原処分庁にありますので,原処分の理由があまり特定されない再調査の請求段階では防御のしようがないこともありますが,審査請求の段階では様相が変わります。

     一方で,裁判手続と異なり,上記のように,原処分庁の保有する証拠を一部しか閲覧することが出来ませんので,特に事実認定が問題となる事案では,審査請求段階で何をどこまで主張,立証するのか,難しい判断を迫られる場合もあります。
     
  2.  そうしたことや,そもそも,審判所の職員は課税庁の職員であり納税者の主張が認められる望みも薄いとして,審査請求段階では積極的に主張,立証を行わないという方針をとるべきとする見解もありますが,私はそうは考えません。

     (1) まず,私が審判官として実際の事案を担当しながら見た限りではありますが,課税庁の職員が不合理に取消しに消極的であるとは思えません。取消しの根拠がはっきりしていれば,むしろ訴訟前に取消しをする姿勢を幾度も感じたことがあります。問題は取消しの根拠をはっきりと提示できるかどうかにかかっています。

     (2) 次に,審判所で取り消されれば,上記のように裁決の拘束力からして原処分庁がさらに争うことはできませんので,訴訟となった場合と比べて,圧倒的に早く解決します。

     (3) また,請求人が積極的に主張,立証をすることによるデメリットは,真に課税されるべきでない事案であれば,特段ないと思われます。逆に,証拠を五月雨式に後出しすることは,証拠の信用性を減殺しかねません。

     (4) さらに,取り消されるべき課税処分等が,裁判で必ず取消しされる保証はありません。税法の体系的理解に欠けたまま判決をする裁判官も存在しますし,誤った判決も散見されます。そして,課税庁の職員は,審査請求であれば取消しをする案件でも,訴訟になれば,敗訴を避けるために,なんとしても処分を維持しようとします。
     
  3.  主張,立証のポイントは,基本的に再調査の請求段階の主張立証と同様です。

     なお,再調査の請求に係る審理は国税局,税務署のプロパーの職員のみで担当しますが,審判所では外部から出向等している法律家(裁判官,検察官,弁護士)も事案の処理に関与するので,法律的な視点を提供することは,再調査の請求よりも更に重要であると言えます。

裁決後はどうすればよいか

  1.  裁決で原処分が全部取り消されれば,そこで終了です。
     
  2.  審査請求が棄却,却下された場合に,なお不服がある場合には,課税処分等の取消訴訟(税務訴訟)を提起することになります。