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本間合同法律事務所
弁護士・税理士 坂 田 真 吾

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租税法解釈の方法論(佐藤英明教授の分析を読んで)中編
(r3/6/7更新)

問題の所在

 

 前回は、佐藤英明教授による「最高裁判例に見る租税法規の解釈手法」(『法解釈の方法論ーその諸相と展望』)による最高裁の解釈態度の分析を紹介させて頂きました。

 佐藤論文は、現在の最高裁判例は、原則的には租税法規の解釈を文理解釈に限る厳格主義の手法を採用しており、その根拠を租税法律主義の「民主主義的側面」に読み解きます。

 その上で、佐藤論文は、最高裁は「あえて言えば、裁判の結果に「無頓着」にすら見える」と評価します。

 ここで、条文の文理解釈を重視するあまり、結果の妥当性に対する配慮がない(ないしは少ない)ということでよいのか、というのが私の問題意識です。                                      

 

  

課税すべきものを課税できない場合

 この点、いろいろな考え方があるでしょうが、常識的感覚、課税の公平の観点からは課税されるべき事象について、現に明確な立法がなされていない場合には、厳格主義の立場からあえて課税を断念し、将来の立法解決に委ねるということは、それなりに国民の理解が得られるのではないかと思います。

 佐藤論文も、「立法による解決が期待できるならば、将来的にも妥当な結論を求めて目前の具体的な事案についてあえて技術的な解釈による解決を図る必要性は大きく減じられる」という視点を提供しています。

課税すべきでないものを課税してしまう場合

 しかしながら、逆に、課税の体系や公平、常識的感覚からすれば明らかに課税されるべきでないのに、租税法規を形式的に読むと課税対象となっている、という場面ではどうでしょうか。

 このような場面のなかでも、国民生活の中で頻繁に生じる事象については、課税庁が自ら緩和通達といわれる課税を控える通達を作成したり、タックスアンサー等で事実上課税しない見解を公表して妥当な結論、実務運営をしている場合もあります。

 前者の例としては、条文上保証債務に限定されている譲渡所得の特例(所得税法64条2項)を、物上保証、合名会社・合資会社の無限責任社員等についても適用を認める所得税基本通達64-4があげられるでしょう。

 後者の例としては、いわゆる遺言と異なる遺産分割についての国税庁のタックスアンサー質疑事例が、「遺贈を事実上放棄」したとして遺産分割をすることができるとしていること(理論的には、放棄が認められる遺贈とは違って、相続させる旨の遺言の場合には、部分的な放棄はできないから、遺言と異なる財産の帰属を合意したら民法上は贈与と考えられそうだが、あえて、贈与税を課税しないような記述をしていること)があげられると思います。

 しかし、そのような課税を免除する見解が公表されていない場合も少なくありません。上記のように、国民生活において頻繁に生じるわけではない不合理については、課税庁は取り上げないでしょうし、税理士会のような専門家団体が立法の改善を求めることも少ないと思われます。

 そして、このような問題の解決は、本来は、司法権に期待された役割なのではないかと思います。

 たとえば、このコラムでもとりあげた区分所有建物の管理者に区分所有者が支払う管理費が消費税法上の課税仕入れとなるかという問題は、これを肯定しないと税負担の累積という不合理な結果となります。しかし、課税庁、裁判所ともに課税仕入れを認めませんでした(意見書を作成して裁判所に提出しましたが、結局、納税者敗訴に終わってしまいました)。

 明らかに不合理な扱いであり、本来は法令、通達で課税仕入れが認められるように対処されるべきですが、マンション等の区分所有建物を所有して事業を行う事業者は、比較的小規模であって、簡易課税制度によってこの問題が顕在化しないことが多く、立法、行政によって放置されているといえます。しかし、たとえば再開発によって大規模なビルの相当割合を区分所有する事業者の場合には問題が顕在化してしまいます。このような事例は、立法、行政が解決に向けて動かないのであれば、司法が柔軟な法解釈をすることによって救済すべきと思えてなりません。

片面的解釈は許されるか

 

 以上のように、法解釈を一方の当事者(納税者)に有利に解釈するということは許されるのでしょうか。

 この点、私のようなもともと刑事法の畑の人間からすれば、十分に許容されるという感覚があります。刑法の罪刑法定主義は法律の厳格解釈を要求しますが、被告人に有利な方向では類推解釈も拡張解釈も可能とされています。講学上、明文規定がなくても犯罪の違法性を阻却する、超法規的違法性阻却事由なる概念もあります。
 民事法の分野でも、法律を形式的に適用することによる不合理を避けるべく、権利濫用法理、信義則法理、法人格否認の法理などがあります。税法でも、国家の立場から容認できない租税回避行為を否認する規定があります(同族会社の行為計算否認など)。

 そうすると、税法の体系や趣旨からして、課税すべきでないのに条文を形式的に適用した結果、「善良な納税者」に課税してしまうことに対しては、法律を柔軟に解釈して妥当な結果を導くとすべきことが、他の法分野の考え方からしても、むしろ自然なのではないか、とすら思えます。

 次回は、このような考え方が採用できる根拠についてもう少し考察をしたいと考えます。