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本間合同法律事務所
弁護士・税理士 坂 田 真 吾

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マンション等の管理組合における税務(その2 消費税)
(h27/10/13更新)

はじめに

 前回につづいて,マンション等の管理組合の税務のうち,消費税についての考え方をまとめました。

 法人税に比べて,消費税の取扱いは難解で,やや常識に反するきらいがあると考えられます。
(追記:税務弘報平成30年12月号に,「区分所有建物における管理費の消費税法上の取扱いー仕入税額控除は認められないのか?」という論稿を掲載しました)

(追記:その後、最高裁まで争いましたが、納税者敗訴で確定してしまいました。それを踏まえた対応方法等については、本ページの末尾をご参照ください)
 

管理費の取扱い
  1.  消費税については,まず,管理組合が収受する管理費の取扱いが問題になります。

     管理組合にとっては,当該管理費の収受は,課税売上となりません。
     
  2.  そうすると,事業者である区分所有者が管理組合に支払う管理費は,仕入れ税額控除の対象とはならないのか,という問題があります。

     法人税では当然損金でしょうが,消費税では課税仕入になるのかどうか,ということです。
     
  3.  裁決例(国税不服審判所平成24年11月29日裁決(公表)),裁判例(大阪地裁平成24年9月26日判決,大阪高裁平成25年4月11日判決)は,いずれも,管理費の支払は,管理組合の資産の譲渡等との対価性がないとして,仕入れ税額控除を否定しています。
    (大阪地裁平成24年9月26日判決の説示)

     本件各管理費が課税仕入れに係る対価であるというためには,本件各管理費が,本件各管理組合からの役務の提供に対する反対給付として支払われたものであることが必要である。
     そこで検討するに,本件各管理費は,本件各管理組合が行う本件各ビルの共用部分の管理等に要する費用であるところ,原告の負担額は,本件各ビルの共用部分の使用収益の態様や管理業務による利益の享受の程度と直接関係なく,団体内部において定めた分担割合に従い定まるのである。そして,原告は,本件各管理組合に対して共用部分の管理を現実に委託したか否かに関係なく,また本件各管理組合が行った具体的な管理行為の内容如何にかかわらず,本件各管理費の支払義務を負うものであり,本件各管理組合の管理行為と引換えに本件各管理費を支払っているものでもない。
     そうすると,原告は,本件各管理組合に対して本件各ビルの管理業務を委託したことを根拠に本件各管理費を支払っているのではなく,本件各管理組合の構成員の義務として,本件各管理費を支払っているものというべきである。
     したがって,本件各管理費は,管理組合が行う管理業務と対応関係にある金員であるとはいえず,役務の提供に対する対価であるとは認められない

     
  4.  国税庁のHP(「マンション管理組合の課税関係」)でも,管理費等の収受は不課税とされています。
検討
  1.  ただ,個人的には,以上のように解すると,税負担の累積が生じてしまい,消費税の本質に反するように思えます。

     つまり,外部の清掃業者等が,管理組合から委託を受けて清掃業務等を行い受け取る対価は,当該清掃業者において課税売上に該当します。
     そうすると,区分所有者は,当該清掃等の建物の維持管理のために管理費を支払うので,区分所有者が事業者の場合には,仕入れ税額控除ができることとしないと税負担の累積が生じてしまいます。

     
  2.  そもそも,管理費は,建物等の管理や将来において当該修繕等が行われることによって利益を受ける区分所有者のすべてが資金を拠出し,管理組合がこれを保管するという一種の共済事業的な事業によって生じるものであり,このような管理費は区分所有者の管理組合に対する預け金的な性格ないし信託財産的な性格を有すると言えると思います。

     そうであるとすれば,受託者である管理組合が預かった管理費から外部の清掃業者等に業務委託費を支払った場合には,委託者である区分所有者が当該清掃業者等に業務の対価として金員を支払ったものとして仕入れ税額控除の対象とする(管理組合は管理費を預かっているだけなので管理組合の課税売上とはならない)というような構成で課税関係を考えるべきではないかと思います。

     AさんがBさんにお金を預け,BさんがAさんのためにCさん(業者)にこのお金を支払った場合には,Aさんの課税仕入れ,Cさんの課税売上となり,Bさんは無関係となるのと同様です。Aさんは区分所有者,Bさんは管理組合,Cさんは外部業者に当たります。

     管理費を信託財産と考えた場合でも,受益者課税信託となり,Aさん(区分所有者)は委託者かつ受益者,Bさん(管理組合)は受託者となり,Bさんに対する信託財産(管理費)の譲渡は消費税法上の譲渡とならず(消費税法14条1項),BさんがCさん(外部業者)と取引した場合には,当該信託財産に係る資産の譲渡等の取引は受益者(Aさん(区分所有者))の資産の譲渡等とみなすこととされているので(消費税法14条1項),預り金と考えた場合と同様の結論になります。
     
  3.  なお,上記裁判では,原告(納税者)側は,このように,管理費に預り金的な性格があり,この性格をもとに消費税の課税関係を考えるべきではないかという論点を提示していません。単に管理組合の管理業務との対価性があると主張するだけであり,管理組合から更に委託される外部業者も含めた分析,主張がなされていません。したがって,判決でもこの点については何ら触れられていません。裁判所としては,原告の主張を認めたら,管理組合において課税売上を認識しなければならず,それは不都合と考えたものとも思われます(上記の預り金構成であれば,管理組合には課税売上は認識されません)。
     
  4.  裁決,判決のように,管理費の収受を不課税取引として,事業者たる区分所有者の消費税の計算上仕入税額控除の対象としないとなれば,駐車場使用料も同様に不課税となります。

      すなわち,駐車場使用料は,管理費と同様の性質を有するのですから,事業者が駐車場使用料として管理組合に対して支払う金員は,対価性がないものと解することになります。

      上記の国税庁のHPも,「駐車場の貸付け………組合員である区分所有者に対する貸付けに係るものは不課税となりますが、組合員以外の者に対する貸付けに係るものは消費税の課税対象となります。」としており,同趣旨です。
     
  5.  繰り返しになりますが,このような解釈は私としては疑問に思っています。

     現に,税務調査で,事業者たる区分所有者が管理費,駐車場使用料を課税仕入に含めて消費税の申告を行っていたとして,これを否認することはほとんどないのではないかと思います。
課税売上となる収入
  1.     次に,法人税と同じように,管理組合のいかなる収入が課税売上となるのかが問題となります。

     法人税の収益事業収入と,消費税の課税売上は,もとより概念は異なりますが,管理費ないし管理費の割増金としての性格を有するものは共済事業的なものであって,管理組合と区分所有者との間の取引に対価関係がないので,法人税と同様,基本的には外部からの収入は課税取引(課税売上),内部からの収入は不課税取引として考えてよいのではないかと思います。

     上記国税庁のHPでも,駐車場の貸付けについて,「組合員である区分所有者に対する貸付けに係るものは不課税となりますが,組合員以外の者に対する貸付けに係るものは消費税の課税対象となります。」とあります。
     
  2.  なお,上記国税庁HPでは「組合員である区分所有者に対する貸付け」とあるので,当該区分所有建物の賃借人(占有者)が駐車場を賃借した場合はどうなるかが問題となりますが,法人税と同様に,占有者は区分所有者に準じた地位にあるので,区分所有者と同視して不課税と解するべきでしょう。

      当該HPでは,理由付けとして「マンション管理組合は,その居住者である区分所有者を構成員とする組合であり,その組合員との間で行う取引は営業に該当しません。」とあるのですが,消費税法上「営業」という言葉はないので,理由付けが判然としません。もう少し理論的に疑義がないように書いていただきたいところです。
まとめ

 以上のように,法人税と異なり,消費税の取扱はあまりしっくりこず,税務調査でも,通常は,裁決や判決のような理論では課税されていないと思われます。

 税負担の累積を生じることは,今後の消費税率の上昇も考えれば,好ましいことではないので,通達等で妥当な取扱を設定するべきであると考えます。

追記(意見書)

 本コラム掲載後、この論点が問題となる税務訴訟を担当しておられる弁護士より依頼を受けて、意見書を作成し、裁判所に提出しました。

 内容(固有名詞等は省いています)は次をご参照下さい。

追記(結果)

 私見は以上のとおりですが、結果として、納税者敗訴判決に終わってしまいました(令和2年、最高裁で上告不受理等)。非常に残念です。

 不合理な結論であることに変わりはないので、他の工夫として、管理組合を通さずに、外部の業者と直接契約をして支払う、という対応方法はあり得ると思います。
 全ての契約でそれをするのは煩瑣でしょうから、たとえば、(1)建物の相当割合を保有する区分所有者がいる場合(再開発によって区分所有建物が建築された場合などにままあります)に、(2)共用部分の管理費用のうち、かなり高額なものについてのみ、直接契約をする、ということで損害を軽減する方法です。区分所有者が外部の業者と直接契約をすれば課税仕入れとなると思います。なお、管理組合の法人税負担との兼ね合いなどはケースバイケースで要検討と思われます。