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本間合同法律事務所
弁護士・税理士 坂 田 真 吾

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代償分割における調整計算(代償財産ごとに計算すべきこと)
(r3/1/10更新)

はじめに

 

  

 以前、 「相続税申告における代償財産の額の調整計算」というコラムを掲載しました(h27/12/4。なお、拙稿「相続税申告の落とし穴ー代償分割と調整計算」(税務弘報 平成28年7月号))。

 これを見て下った実務家の方から下のような事例(土地だけでなく預金がある事例)での代償財産の額の調整計算方法についてのご相談を受けましたので、私の考えを記載します。

(追記:本事例を元にした審査請求において、納税者の主張が認められました。その内容は、拙稿「代償分割における調整計算の一事例 小規模宅地特例が関係する令和3年12月13日裁決も踏まえて」(税務弘報 2022年8月号)にまとめたので、ご興味があればご参照ください)。

調整計算の規定
  1.  被相続人(相続人は長男甲及び次男乙)の遺産として土地(相続税評価額(路線価価額)8000万円、時価1億円)があり、長男甲が当該土地を取得し、次男乙に対して代償金5000万円を支払う場合を考えます。
     
  2.  このときに、代償金を5000万円として相続税の課税価格を計算すると、

    ・相続人甲:8000万円-5000万円=3000万円

    ・相続人乙:5000万円

    となり、甲、乙が不平等となります。
     
  3.  したがって、次のように、代償金5000万円を相続税の課税価格の計算上は4000万円であると調整して計算するべきことになります(相続税基本通達11の2-10)。

     5000万円×8000万円/1億円=4000万円
土地だけでなく預金がある場合
  1.  代償金の計算

     土地だけでなく、別途、預金として5000万円があり、この預金は乙が取得するものとします。

     このとき、遺産としては、①甲が取得する不動産1億円+②乙が取得する預金5000万円=合計1億5000万円となります。

     したがって、それぞれの法定相続分に応じた取得分は7500万円となるから、甲は、乙に対し、7500万円-5000万円=2500万円を代償金として支払うことになるでしょう。
     
  2. 誤った調整計算

     このとき、2500万円について、次のような計算をしても、相続税法基本通達11の2-10の計算式を正しく適用したものとはなりません。

     2500万円×(8000万円+5000万円)/(1億円+5000万円)
    =2500万円×13/15=2166万6667円

    仮にこのように計算すると、相続税の課税価格は、

    ・相続人甲:8000万円-2166万6667円=5833万3333 円

    ・相続人乙:5000万円+2166万6667円=7166万6667円

    となり、甲、乙の価格が不公平になります。
     
  3. あるべき調整計算

     以上の誤りは、上記2500万円を、そのまま代償金として調整計算規定に当てはめてしまったことに起因します。

     留意するべきは、当該2500万円は、次のように、甲、乙がそれぞれ取得する財産から計算される個別代償金を合算したものに過ぎないということです。

     
     ①不動産①の代償金②預金②の代償金合計
    1億円ー5000万円0円+2500万円7500万円
    0円+5000万円5000万円-2500万円7500万円

    すなわち、2500万円は、個別代償金の合計として算出されたものです。
   (2500万円=①の代償金(5000万円)+②の代償金(-2500万円))

 

   この場合、代償金の調整計算は、次のように、代償分割の対象となった、
   ①不動産、②預金、ごとになされなければなりません。

 

  ・①不動産に係る代償金
    5000万円×8000万円/1億円=4000万円
 

  ・②預金に係る代償金
    2500万円×5000万円/5000万円=2500万円

   したがって、相続税の課税価格は次のようになります。

 

 ①不動産①の調整後代償金②預金②の調整後代償金合計
8000万円ー4000万円0円+2500万円6500万円
0円+4000万円5000万円-2500万円6500万円



 すなわち、調整前の代償金の合計額は2500万円であったのに対し、調整後の代償金の合計額は1500万円(4000万円-2500万円)として計算しなければなりません。

 そうすると、相続税の課税価格は、

・相続人甲:8000万円-1500万円=6500万円

・相続人乙:5000万円+1500万円=6500万円

というように、甲、乙で平等となります。

まとめ

 以上のように、代償分割の調整計算においては、財産ごとに調整計算規定の計算式を適用しないと正しい計算となりませんので、留意が必要です。