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本間合同法律事務所
弁護士・税理士 坂 田 真 吾

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相続税申告における代償財産の額の調整計算
(h27/12/4更新)

はじめに

 

  遺産分割には,次の4つの方法があります。

  • 現物分割(個々の財産の形状や性質を変更することなく分割する)
     
  • 代償分割(一部の相続人に法定相続分を超える額の財産を取得させた上,他の相続人に対する債務を負担させる方法)
     
  • 換価分割(遺産を売却等で換金(換価処分)した後に,売買代金等を分配する方法)
     
  • 共有分割(遺産の一部又は全部を具体的相続分による物権法上の共有取得とする方法)



  今回は,代償分割の場合に,どのように取得財産を計算するのかを見ていきます。

 

(なお,本稿をもとに,税務弘報平成28年7月号に「相続税申告の落とし穴ー代償分割と調整計算」と題する原稿を掲載しました)

 

 

 

 

代償分割に係る相続税基本通達の定め

  1.  代償分割の場合については相続税基本通達11の2―9,11の2―10が定めています。
     
  2.  たとえば,相続人が2名で,うち1名が1億円の不動産(遺産)を取得し,他方に5000万円支払う場合には,それぞれ5000万円を取得財産とするのが原則です。

     例外的に調整計算が可能ですので(11の2―10ただし書),この点は後述します。
  • 相続税基本通達11の2-9

     代償分割の方法により相続財産の全部又は一部の分割が行われた場合における法第11条の2第1項又は第2項の規定による相続税の課税価格の計算は、次に掲げる者の区分に応じ、それぞれ次に掲げるところによるものとする。

    (1) 代償財産の交付を受けた者 相続又は遺贈により取得した現物の財産の価額と交付を受けた代償財産の価額との合計額

    (2) 代償財産の交付をした者 相続又は遺贈により取得した現物の財産の価額から交付をした代償財産の価額を控除した金額
     
  • 相続税基本通達11の2-10

     11の2-9の(1)及び(2)の代償財産の価額は、代償分割の対象となった財産を現物で取得した者が他の共同相続人又は包括受遺者に対して負担した債務(以下「代償債務」という。)の額の相続開始の時における金額によるものとする。 

    ただし、次に掲げる場合に該当するときは、当該代償財産の価額はそれぞれ次に掲げるところによるものとする。

    (1) 共同相続人及び包括受遺者の全員の協議に基づいて代償財産の額を次の(2)に掲げる算式に準じて又は合理的と認められる方法によって計算して申告があった場合 当該申告があった金額

    (2) (1)以外の場合で、代償債務の額が、代償分割の対象となった財産が特定され、かつ、当該財産の代償分割の時における通常の取引価額を基として決定されているとき 次の算式により計算した金額

     A×(C÷B)

(注) 算式中の符号は、次のとおりである。
Aは、代償債務の額

Bは、代償債務の額の決定の基となった代償分割の対象となった財産の代償分割の時における価額

Cは、代償分割の対象となった財産の相続開始の時における価額(評価基本通達の定めにより評価した価額をいう。)

代償財産の額の調整計算
  1.  相続税基本通達11の2―10ただし書は,次のような事例で考えられます。

     
  2.  相続人が甲,乙の二名(法定相続分各2分の1)で,甲が,不動産(相続税評価額8000万円,時価1億円)を取得する代りに,時価の半額(5000万円)を乙に支払う代償分割を行ったとします。

     この場合に,代償財産を5000万円として計算すると,次のように,甲と乙の取得財産の額に不均衡が生じ,相続税額もアンバランスになります。

    甲 3000万円(=8000万円(相続税評価額)-5000万円)
    乙 5000万円
     
  3.  しかし,甲と乙は,もともと不動産を各2分の1の法定相続分でわけようと考えて上記の代償分割をしたのでしょうから,相続税額も平等になるべきものといえます。

     2分の1ずつ現物分割した場合には同じ金額(8000万円÷2=4000万円)が取得財産の額となるのに,代償分割をしたら不均衡が生じることになってしまいます。

     そして,この不均衡の原因は,不動産の時価と相続税評価額が乖離していることから生じています(一般に,相続税評価額は,時価の80%を目処に路線価等で設定されています)。
     
  4. そこで,上記の5000万円について,次のような調整計算をします。

A(代償債務の額)=5000万円

B(不動産時価)=1億円

C(不動産相続税評価額)=8000万円

代償財産の額=A×C÷B=5000万円×8000万円÷1億円=4000万円

そうすると,甲と乙の取得財産は次のようになります。

甲 4000万円(=8000万円(相続税評価額)-4000万円)

乙 4000万円

 

東京高裁平成17年2月10日判決もこの通達の取扱いと整合的です。

やや複雑な事例での調整計算

 では,相続人が多数で,調整計算の必要がある不動産も複数あった場合にはどのように計算するべきでしょうか。

(事例)

  • 相続人 甲,乙,丙(法定相続分はいずれも3分の1)
     
  • 相続財産 自宅(時価1億8000万円,相続税評価額1億4400万円)
        マンション(時価9000万円,相続税評価額8100万円)
     
  • 遺産分割 甲が自宅,乙がマンションを取得し,丙は不動産の時価評価を前提に,現金で代償分割する(時価合計2億7000万円なので,丙が代償財産として現金9000万円を取得)。

   基本は以上のとおりなので,分析的に考えればよいです。

 

分析1 各自の取得不動産(時価)から,他の相続人に対して法定相続分に応じた代償金を支払う
  まず,自宅,マンションとも,本来は法定相続分に応じて甲,乙,丙が取得するので,甲は自宅を取得し乙,丙に代償金を支払い,乙はマンションを取得して甲,丙に代償金を支払うこととなります。

                     (代償金額(A)及び支払先)

不動産取得者取得不動産(時価(B))合計
自宅(1億8000万円)×6000万円6000万円1億2000万円
マンション(9000万円)3000万円×3000万円6000万円
なし00×0

 

  分析2 各不動産に係るC/Bの値

   次に,不動産の相続税評価額(C)と時価(B)との乖離を見ます。

不動産取得者B(時価)C(相続税評価)C/B
1億8000万円1億4400万円0.8
9000万円8100万円0.9

 

分析3 上記1の代償金の額(A)に,上記2のC/Bの値を乗じて,代償財産の額を調整計算する。

 

                (代償金額(A×C/B)及び支払先)

不動産取得者C/B合計
0.8×4800万円4800万円9600万円
0.92700万円×2700万円5400万円

 

分析4 上記3から,誰が,誰に,いくらの代償金(調整後)請求権を有するのかを整理する。

   甲 乙に対し2700万円

   乙 甲に対し4800万円

   丙 甲に対し4800万円

     乙に対し2700万円

 

   これを申告書に取得財産として計上すれば,相続税の額も平等になります。

   まとめると次のとおりです。

 取得不動産(相続税評価)支払う代償金受け取る代償金合計
1億4400万円-9600万円2700万円7500万円
8100万円-5400万円4800万円7500万円
07500万円7500万円

 

まとめ

 実務上,代償分割が行われる事例は多く,代償金は相続税評価額ではなく,相続人間の公平のため,時価を基準に計算される場合が多いと考えます。

 一方で,上記通達の取扱いを適用しなければ,遺産分割では平等になるとしても,相続税負担が不平等になってしまうので,留意するべきでしょう。