まず,信託によって何ができるかを考えてみます。
大きく,(1)生前の資産管理と,(2)相続後の資産承継を分けて考えるとわかりよいです。
- (1)生前の資産管理については,判断能力が低下した場合の成年後見制度と比較して,資産管理を柔軟に行うことができるという利点があげられます。
すなわち,成年後見を利用した場合,全般的に,家庭裁判所の強力な監督下におかれます。成年後見人を誰にするかも家庭裁判所の専権ですし,成年後見制度はあくまでも本人(成年被後見人)のための制度なので,経済的に困窮する親族への贈与,相続税対策等も行うことができません。いわば,認知症等による成年後見申立を機に,一気に,裁判所が家庭に入ってくるようなこととなります。
これに対し,信託を用いれば,資産管理方法を受託者に委ねることができます。信託の目的として親族(お孫さんなど)の教育資金や生活資金の贈与も含めておけば,受託者はその信託目的に沿って資産管理をすることができます。収益物件等の一部の財産のみ信託を設定して受託者に管理を委ね,成年後見制度を併用することも可能です。
このように,成年後見の利用のみでは実現困難な柔軟な資産管理を,信託によってはかることができます。
- (2)相続後の資産承継も柔軟に定めることができます。詳細は別の回に紹介しますが,たとえば民法では後継ぎ遺贈(遺言で,Aに財産を承継させ,かつ,Aの死亡後にはBに承継させることを定めるもの)は効力を持たないとする見解が有力ですが,信託であればこれが実現可能です(信託法91条によって認められると解されています)。
会社の創業者が,複数の子に株式を平等に承継させつつ,後継者にのみ議決権を集中させるといったことも可能です(会社法では種類株式を用いることになりますが,信託という簡便な方法によって実現できます)。
また,遺言はいつでも撤回できるので(民法1022条),亡くなる前に親族間で遺言獲得合戦のような紛争が起きてしまうことがありますが,信託を用いれば撤回できない遺言代用信託(信託法90条1項但書)をすることによって,このような紛争を防止することができます。
このように,財産承継の場面でも,信託を利用することにより通常の遺言では実現ができなかった柔軟な承継が可能になるのです。
- なお,課税関係は別回で取り上げますが,課税上のメリットはないと考えた方がよいです(米国では信託を利用した節税が可能なようですが)。
信託の利用には税法知識が不可欠ですが,それは節税ができるからではなく,想定外の過大な課税を避けるためです。