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本間合同法律事務所
弁護士・税理士 坂 田 真 吾

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民事信託(家族信託)の活用方法と課税関係(その1 総論)
(h28/8/2更新)

はじめに

  1.  平成18年に信託法,信託業法が改正され,また平成19年には,所得税法,法人税法,相続税法が,改正信託法を踏まえて改正が行われました。

    わが国では,従来,信託は主にビジネス目的で用いられる商事信託が主流でした。商事信託は,ある分類によれば,①預金型商事信託(貸付信託等),②運用型商事信託(指定金銭信託(ユニット型)等),③転換型商事信託(資産流動化スキーム等),④事業型商事信託(土地信託等)に分類されます。

    上記信託法の改正を受け,また,高齢化社会に対応するために,家族間で柔軟な資産管理,資産承継をはかることのできる信託の有用性が説かれています。


     このような信託は,従来の商事信託とは異なり個人間,家族間で行われるので,民事信託,家族信託などと呼ばれます(法律上の用語ではありません)。

     
  2. ​ 信託のそもそもの由来は,財産の所有者(委託者)が,専門家(受託者)に財産の管理運用等を委ねて,これを受益者のために用いてもらうというものですが,信託契約等の中で様々な定めをおくことができることから,通常の民法の財産管理,財産承継等では実現できない柔軟なスキームを構築することができます。

    一方で,信託法制度は,民法等の他の法制度とかなり異質であり複雑です。また,信託を課税逃れに使われないようにするという観点から,様々な課税上の取扱い(時にはドラスティックに課税する扱い)が規定されています。

    したがって,弁護士等の専門家でも,信託についてはあまりなじみがなく,本来であれば信託を使えば妥当な権利関係を構築できるのに,専門家の方がこれに応じられていないという現状があります。


     
  3.  私としては,信託はきちんと理解して慎重に使えば,有用な制度であり,もっと活用が広がってもよいと考えています。

    そこで,本コラムでは,今回から数回程度,信託について取り上げたいと思います。

信託によって何ができるか

  まず,信託によって何ができるかを考えてみます。

  大きく,(1)生前の資産管理と,(2)相続後の資産承継を分けて考えるとわかりよいです。

  1.  (1)生前の資産管理については,判断能力が低下した場合の成年後見制度と比較して,資産管理を柔軟に行うことができるという利点があげられます。

     すなわち,成年後見を利用した場合,全般的に,家庭裁判所の強力な監督下におかれます。成年後見人を誰にするかも家庭裁判所の専権ですし,成年後見制度はあくまでも本人(成年被後見人)のための制度なので,経済的に困窮する親族への贈与,相続税対策等も行うことができません。いわば,認知症等による成年後見申立を機に,一気に,裁判所が家庭に入ってくるようなこととなります。

     これに対し,信託を用いれば,資産管理方法を受託者に委ねることができます。信託の目的として親族(お孫さんなど)の教育資金や生活資金の贈与も含めておけば,受託者はその信託目的に沿って資産管理をすることができます。収益物件等の一部の財産のみ信託を設定して受託者に管理を委ね,成年後見制度を併用することも可能です。

     このように,成年後見の利用のみでは実現困難な柔軟な資産管理を,信託によってはかることができます。
     
  2.  (2)相続後の資産承継も柔軟に定めることができます。詳細は別の回に紹介しますが,たとえば民法では後継ぎ遺贈(遺言で,Aに財産を承継させ,かつ,Aの死亡後にはBに承継させることを定めるもの)は効力を持たないとする見解が有力ですが,信託であればこれが実現可能です(信託法91条によって認められると解されています)。

     会社の創業者が,複数の子に株式を平等に承継させつつ,後継者にのみ議決権を集中させるといったことも可能です(会社法では種類株式を用いることになりますが,信託という簡便な方法によって実現できます)。

     また,遺言はいつでも撤回できるので(民法1022条),亡くなる前に親族間で遺言獲得合戦のような紛争が起きてしまうことがありますが,信託を用いれば撤回できない遺言代用信託(信託法90条1項但書)をすることによって,このような紛争を防止することができます。

      このように,財産承継の場面でも,信託を利用することにより通常の遺言では実現ができなかった柔軟な承継が可能になるのです。
     
  3.  なお,課税関係は別回で取り上げますが,課税上のメリットはないと考えた方がよいです(米国では信託を利用した節税が可能なようですが)。

     信託の利用には税法知識が不可欠ですが,それは節税ができるからではなく,想定外の過大な課税を避けるためです。

信託において何に気をつけなければならないか

 以上,信託のメリットをお伝えしましたが,実際に信託を設定する際には気をつけなければならないことがあります。

  1.  まず,課税関係には注意が必要です。詳細は別回で取り上げますが,特に,①受益者連続型信託では,当初の受益者に付されている制約が無視され,後続の受益者が取得するべき受益権まで含めて課税され,重複課税が生じること,②受益者等不存在信託においては,設定時に,受託者を法人として,法人税ないし相続税・贈与税が課税されること(所得税法6条の3第7号,相続税法9条の4第1項),また,法人への資産の贈与なので委託者が個人の場合,所得税法59条1項1号によるみなし譲渡課税を受ける可能性があること,等があげられます。

     したがって,信託を設定する際には,想定外の課税が生じないように注意しなければなりません。
     
  2.  また,信託は,将来にわたる権利関係を柔軟に細かく規定するものですので,家族構成の変動等を想定し,無用の紛争が生じないように配慮した内容とする必要があるでしょう。
     
  3.  さらに,信託法の学説,判例も十分に固まっていない点もあるので,実際の信託契約作成は,複数の専門家が文案をチェックした方がよいと思います。私がこれまで作成した信託契約は,すべて公正証書によることとしており,事前に公証人と議論して文言を詰めてから締結することにしています。

    次回は,信託法の構造と,委託者,受託者,受益者等の用語の紹介などをします。