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本間合同法律事務所
弁護士・税理士 坂 田 真 吾

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マンション等の管理組合における税務(その1 法人税)
(h27/9/23更新)

はじめに

 マンション等の管理組合は,建物の区分所有等に関する法律(「区分所有法」)3条に規定する区分所有者の団体として,建物の管理等を行います。

 このような管理組合には様々な収入,支出が生じます。区分所有者から管理費や駐車場使用料を徴収したり,建物に携帯電話の基地局が設置されたことによる対価を取得したりします。駐車場は外部の方に貸す事例もあります。

 今回は,管理組合の税務のうち,法人税についての考え方をまとめてみました。消費税は次回掲載します。

 

前提(管理組合の法的性格,収入の帰属)
  1.  法人税を検討する前提として,マンションの管理組合は,原則として「人格のない社団等」(法人税法2条8号)に該当すると言えます。

     これは,通常のマンションの管理組合は,最高裁昭和39年10月15日判決が掲げる,①団体としての組織を備え,②多数決の原則が行われ,③構成員の変更にかかわらず団体が存続し,④その組織において代表の方法,総会の運営,財産の管理等団体としての主要な点が確定している団体,という要件に合致するからです。

     
  2.  また,駐車場使用料等の共用部分等から生じる利益は,誰に帰属するのか(管理組合なのか,それとも各区分所有者なのか)という問題がありますが,これは管理組合に帰属すると解されます(東京地裁平成3年5月29日判決)。

     当該判決の説示は次のとおりです。
      「共用部分から生ずる利益は、先にみたとおり、区分所有者各人がこれを収取するものとされているけれども、共用部分の利用による収益金が生じるためには、先ず、規約又は区分所有者集会の決議において、共用部分の管理の一環として収益源となる事業を行うことについての区分所有者らの団体内の意思決定がなされ、それに基づき、区分所有者ら又はこれから委任を受けた管理者が区分所有者らの団体の事業として共用部分を第三者の利用に供してその対価を徴収し、右対価からそれを得るために区分所有者ら又は管理者が支出した経費、費用等を差し引くなど、一連の団体的な意思形成と業務遂行をとおして得られる性質のものであることを考え合わせると、共用部分そのものではないそこから派生した利益を収取する権利も、団体的拘束から自由ではないのであって、各区分所有者らは、収益の発生と同時に当然に即時これを行使することができるといった性質のものではなく、結局、共用部分から生じた利益は、いったん区分所有者らの団体に合有的に帰属して団体の財産を構成し、区分所有者集会決議等により団体内において具体的にこれを区分所有者らに分配すべきこと並びにその金額及び時期が決定されてはじめて、具体的に行使可能ないわば支分権としての収益金分配請求権が発生するものというべきである。」
収益事業から生じた所得に該当するか
  1.  そうすると,人格のない社団等としての管理組合に収益・費用が帰属することになりますが,人格のない社団等は,「収益事業から生じた所得」以外の所得については法人税を課さない(法人税法7条)とされているので,収益事業に係る収入のみが,法人税課税の対象となります。
     
  2.  それではどのような収入が収益事業に係る収入になるのでしょうか。

     たとえば,駐車場については,内部の区分所有者や賃借人(テナント)に利用させて料金を徴収している場合には収益事業収入に該当しません。

      一方で,外部の方に駐車場を利用させている場合には,募集をどのように行っているか,区分所有者に優先的に利用させているか等により収益事業該当性が異なってきます。

      この点については,国土交通省が国税庁に照会を行い,国税庁が回答をしています(平成24年2月13日)。内容については国税庁のHPをご参照下さい。
     
  3.  また,国税不服審判所平成21年11月11日裁決(TAINSコードF0-2―360。非公表)では,区分所有建物の各種の収入が収益事業収入に該当するかが判断されています。

     ここでも,全体的に,外部からの収入は収益事業収入,内部からの収入は収益事業収入ではない,と判定されているものと解されます。

 

科目

内容収益事業
携帯・PHS基地使用料基地局設置の対価不動産貸付業(国税庁HP
公衆電話設置手数料NTTが建物の共用部分に設置不動産貸付業
荷捌場使用料運送業者が入居者のために荷物を建物に搬入する際,地下の荷捌場に運搬車両を駐車させ,時間制の料金を徴収駐車場業
駐車場区分所有者,入居者に限定して利用させる×
広告枠使用料建物の共用部分(壁面)の広告枠を入居者が広告のために使用×
会議室使用料建物の共用部分(会議室)を区分所有者,入居者が利用×

 

 

 それでは,なぜ,同じく管理組合が収受する金員であるのに,このような違いが生じるのでしょうか。キーワードとなるのは,管理費収入は共済事業的な事業に係る収入であり収益事業収入ではなく,また,内部の区分所有者等に駐車場等を利用させることに係る駐車場使用料等は管理費と同様の性質を有する(管理費の割増金)ということであると考えられます。(この視点は,消費税の課税関係を考える上でも重要です

この点,上記裁決は,収益事業収入に該当するか否かについて,「人格のない社団等の収入が,収益事業に係る収入となるためには,その事業が法人税法施行令第5条第1項に列挙された事業(その性質上その事業に付随して行われる行為を含む。以下「政令において定められた事業」という。)で,継続して事業場を設けて行われるものからの収入であることが要件となる。そして,当該収入に係る事業が,政令において定められた事業に該当するか否かについては,当該事業の目的,内容,態様等の諸事情を社会通念に照らして総合的に検討して判断するのが相当である。」と基準を定立しています。

その上で,まず,管理費については,「本件管理費の徴収による収入は,外形的には政令において定められた事業の形態を有するものに係る収入であるとしても,本件建物等の管理のために徴収され,使用されるという本来の目的及びその使途に加え,同収入の一部は,将来の大規模修繕等に備えて積み立てられていることからすると,当該収入は,本件建物等の管理や将来において当該修繕等が行われることによって利益を受ける区分所有者のすべてが資金を拠出し,請求人がこれを保管するという一種の共済事業的な事業に係る収入とみるべきであって,政令において定められた事業に係る収入であるとは解されない。」としています。

さらに,内部の区分所有者に利用させる駐車場使用料については,「外形的にみれば駐車場業の形態を有するものに係る収入であるところ,実質的にも,請求人が本件駐車場を使用させている行為が駐車場業に該当するか否かについて検討する」とし,「①実際に本件駐車場を使用しているのは本件区分所有者のすべてではなく,その一部であり,負担の公平,調整という観点を考慮する必要があることから,請求人は,本件駐車場の施設の管理等に要する費用に充てる目的で徴収しているものと認められることに加え,②本件建物においては,駐車場使用料が近隣の相場よりも低額な料金設定をされていて,実費相当分を大幅に超過するような金額が支払われているとは認められないこと,③徴収した金員のうち一部は本件建物の修繕等のために大規模修繕積立金に振り替えられ,積み立てられているものであり,本件建物の維持,管理目的を超えて利益を上げることを目的として徴収しているとは認められないことを総合して考慮すると,実態として,請求人が駐車場使用料として計上した収入は,請求人が徴収する本件管理費による収入と同様の性質を有するものと解される。」として,収益事業収入ではないとしています。

また,駐車場をテナント(区分所有者から賃借を受けた占有者(入居者))が利用して使用料を支払っていても,占有者は区分所有者に準じた立場にあり同視できるから収益事業に当たらないとしています

 
収益事業収入に該当するかは,結局のところ,実質判断ということなのでしょう(なお,宗教法人が死亡したペットの飼い主から依頼を受けて葬儀等を行う事業が収益事業に当たると判断した最高裁平成20年9月12日判決も,当該ペット葬祭業は外形的に見ると請負業等の行為の形態を有すると認定した上で,当該事業の内容等から総合的に判断して請負業に当たる,と判示しています)。

損金の計上方法について
  1.  費用(損金)をどのように計上するのか,という問題もあります。

      上記裁決では,建物の維持管理に要した費用でも一定部分は収益事業に係る費用に該当するとして,
      ①各収入について直接に要する費用,
      ②建物全体の維持管理に要する費用で,収入金額に比例して支出されると認められる費用,
     ③建物の維持管理に要する費用で,建物全体の面積のうち施設等の面積に応じて支出されると認められる費用,
      ④建物の共用部分の維持管理に要する費用で,共用部分の面積のうち施設等の面積に応じて支出されると認められる費用等
    を区分し,適宜の方法で按分計算しており,参考になると思われます。
     
  2.  なお,裁決では触れられていませんが,駐車場設備の減価償却は,そもそも駐車場は区分所有者が所有するものであり(人格なき社団である)管理組合が所有するものではないから,管理組合の収益事業に係る所得の計算上,損金に計上できないと解されます。
     
  3.  また,未納管理費が貸倒となった場合については,もともと管理費収入は収益事業に係る収入ではないので,収益事業から生じる所得の計算上,損金に算入できないと考えられます。