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本間合同法律事務所
弁護士・税理士 坂 田 真 吾

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理由付記の不備を理由に法人税の更正処分が取り消された事例(大阪高裁平成25年1月18日判決)
(h27/7/1更新)

概要
  1.  財団法人が,市から委託を受けて行う事業について,法人税の更正処分を受けたところ,理由付記の不備を理由に当該処分が取り消された事例です。
     
  2.  理由付記(法人税法130条2項)の不備を理由に更正処分が取り消された,珍しい事例です。なお,国側は上告せず高裁判決が確定しています。

    法人税法130条2項
     「税務署長は,内国法人の提出した青色申告書又は連結確定申告書等に係る法人税の課税標準又は欠損金額若しくは連結欠損金額の更正をする場合には,その更正に係る国税通則法第二十八条第二項 (更正通知書の記載事項)に規定する更正通知書にその更正の理由を付記しなければならない。」
事実関係(高裁判決文より)

事実関係は次のとおりです。

  1.  財団法人Xの設立以降の税務申告内容

      財団法人Xは,東大阪市の全額寄付により昭和47年に設立され事業を開始した。この当初から,営む事業を公益事業部門と収益事業部門とに区分して経理を行っており,公益事業部門(し尿業務等の東大阪市からの委託業務部門)については毎年赤字が累積していたが,公益事業部門については収益事業に該当せず,非課税であることを前提に,収益事業部門からあがる所得について課税所得として税務申告を行ってきた。

     財団法人Xは,平成7年の税務調査時においても,公益事業部門の赤字が累積していたので,収益事業部門と公益事業部門を合算して申告すれば,財団法人Xの収益事業部門からあがる所得が大幅に減り,還付金が発生することが確実であった。しかし,処分行政庁担当者は,平成7年の税務調査時においても,財団法人Xが過剰な所得申告をしていることを指摘して,収益事業部門と公益事業部門を合算して申告するような指導はしなかった。
     
  2.   財団法人Xの収支

     財団法人Xは,東大阪市の財政事情等により,設立後本件各事業の開始当初から,東大阪市から支払われるし尿業務等の委託費の原価割れ等のため赤字経営が続いて累積債務を増大させていき,平成3年には,銀行からの借入を,東大阪市からの無利子での一時借入に変更する措置がとられ,平成八年度末における東大阪市に対する負債総額は19億9500万円に達した。

      他方,東大阪市からの新規業務委託等の支援策等により,財団法人Xの公益事業部門は,平成8年に黒字に転化し,平成9年から,剰余金を東大阪市に対する債務の返済の原資とするようになった。

      財団法人Xは,本件各事業年度である平成16年3月期には1億3000万円,平成17年3月期には1億3000万円,平成18年3月期には1億2000万円,平成19年3月期には1億4000万円を,東大阪市に対する債務の返済に充てている。
本件の理由付記

  次のように記載されていました。

  • 「 収益事業計上漏れ 620,821,582円

      貴法人が東大阪市と締結した各種委託契約に基づき受ける委託料及び民間の者からの委託に基づき行った自動車の撤去により受ける委託料並びに東大阪市補助金交付指令により,派遣職員の人件費及び社屋の賃貸料に充当あるいは補助することに使途を限定されて受ける補助金は,法人税法第2条第13号に規定する収益事業の収入に該当します。したがって,当事業年度の所得金額に加算しました。」
争点と高裁判決
  1.  本件の争点は次のとおりです。

    ① 本件の各事業が収益事業に該当するか

    ② 本件の各理由付記は,法人税法130条の要件を満たすか

    ③ 国税通則法65条4項所定の正当理由があるか
     
  2.  争点①について,財団法人X(原告,控訴人)は,本件の事業が収益事業(のうち,「請負業」(法人税法施行令5条1項10号))に該当しないと主張しています。

      その主な根拠は,請負業に当たるとしても,法人税基本通達15-1-28の実費弁償により行われるものである,なお,剰余金の生じた年にも,市から多額の借入金額があって債務超過状態であり,剰余金をもって借入金の返済に充当したとしても,剰余金を留保し,これを貯蓄することには当たらないから,実費弁償により行ったものと言える,というものです。

     法人税基本通達15-1-28(実費弁償による事務処理の受託等)

    「公益法人等が,事務処理の受託の性質を有する業務を行う場合においても,当該業務が法令の規定,行政官庁の指導又は当該業務に関する規則,規約若しくは契約に基づき実費弁償(その委託により委託者から受ける金額が当該業務のために必要な費用の額を超えないことをいう。)により行われるものであり,かつ,そのことにつきあらかじめ一定の期間(おおむね5年以内の期間とする。)を限って所轄税務署長(国税局の調査課所管法人にあっては,所轄国税局長。以下15-1-53において同じ。)の確認を受けたときは,その確認を受けた期間については,当該業務は,その委託者の計算に係るものとして当該公益法人等の収益事業としないものとする。」

     
  3.   第一審判決(大阪地裁24年2月2日判決)では,国側が全面勝訴しましたが,控訴審では,理由付記の不備を理由に,逆転されました。
      その理由は,高裁判決文によれば,次のとおりです。

    (高裁判決)

     「本件各付記理由は,上記のとおり,収益事業の収入に該当すると認定した収入の金額については,各契約書に基づきその算定過程について具体的に記載するものであるが,法適用に関しては,「法人税法二条一三号に規定する収益事業の収入に該当する」との結論を記載するにとどまり,なぜ収益事業の収入に該当するのかについての法令等の適用関係や,何故そのように解釈するのかの判断過程についての記載が一切ない。」


    「特に,本件各更正処分については,次のaないしcの事実を指摘することができ,これらの事実に照らせば,行政処分庁の判断の慎重,合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える必要があるのは,主として,本件各事業が実費弁償により行われているといえるのか,実費弁償通達が適用されるのかとの点にあったものと考えられるところ,本件各付記理由にはこの点について何ら記載するものではなく,行政処分庁の判断過程を検証することができない。
      
      a 控訴人は,昭和四七年の設立後事業を始めた当初から平成一九年までの長年にわたり,公益事業部門に区分して経理していた事業については,非課税であることを前提に税務申告を行ってきたこと。

      b 処分行政庁担当者は,平成七年の税務調査時において,控訴人が,公益事業部門については収益事業に該当せず,非課税であることを前提に税務申告を行ってきたことについて,是正指導をしなかったこと。

      c 処分行政庁担当者は,平成一九年四月の税務調査に際して,控訴人が受け取っていた委託料が実費弁償かどうか等を中心に調査を行い,調査後,行政処分庁担当者においても,控訴人に対し,いったんは,公益事業部門については非課税の方向である旨の見解を示していたこと。」


     「以上の認定判断を総合すると,本件各付記理由は,法人税法一三〇条の求める理由付記として不備があるものといわざるを得ない。」
検討
  1.   本件の理由付記は,「貴法人が東大阪市と締結した各種委託契約に基づき受ける委託料・・・は,法人税法第2条第13号に規定する収益事業の収入に該当します」とされているだけなので,確かに,あっさりとしすぎている感があります。
     
  2.  なお,別の事例(東京地裁平成22年4月22日判決)ですが,財団法人郵政福祉が,日本郵政公社に対して特定郵便局の局舎の提供に係る業務が不動産賃貸業に該当し,賃貸借料として支払いを受けた金員が収益事業から生じた所得に当たるとされた事案では,次のように理由付記がされています。

    (東京地裁の事例の理由付記)

    「不動産賃貸料収入の計上漏れ」「貴財団は,日本郵政公社に対して貸付けている郵便局舎及び郵政宿舎の賃貸料収入を収益事業以外の収益としていますが,当該賃貸料収入は,貴財団が所有する建物を,その用途に従って日本郵政公社に利用させることの対価であり,また,法人税法施行令第5条第1項第5号のイないしルに掲げられた収益事業とされない不動産貸付業には該当しませんので,収益事業とされる不動産貸付業に係る収益となります」

      当該事例も理由付記の不備が争点になりましたが,東京地裁判決では,上の通知書は,「本件局舎契約に係る業務が不動産貸付業に当たることの本質的な理由を端的に述べているのであるから,更正処分庁の恣意抑制及び不服申立の便宜という理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に記載されたものであるということができる」としています。
     
  3.  今回の東大阪市の事案でも,「貴法人が東大阪市と締結した各種委託契約に基づき受ける委託料及び民間の者からの委託に基づき行った自動車の撤去により受ける委託料並びに東大阪市補助金交付指令により,派遣職員の人件費及び社屋の賃貸料に充当あるいは補助することに使途を限定されて受ける補助金は,し尿処理運搬業務棟の事務の委託を受ける業を,継続して事業場を設けて行っており,委託の対価がその事務処理のために必要な費用を超えないことが法令の規定により明らかである等とは言えず,実費弁償により行われているとも言えないことから,法人税法第2条第13号に規定する収益事業のうち,請負業(法人税法施行令5条1項10号)に係る収入に該当します。」などと記載されていれば,理由付記としては足りるのでしょう。
     
  4.   ただし,高裁の判決を全面的に支持できるかと言われると,私としては疑問を感じます。

    (1)  まず,本件のように,公益法人等が事業を行い,委託料などの名目で収入を得ている場合には,直感的に,「請負業」(法人税法施行令5条1項10号)に該当し,収益事業課税(法人税法7条)がなされる可能性があることは,税務の専門家であれば誰でも分かる事柄です。なお,平成7年の税務調査時に是正指導しなかったことも高裁判決の理由に挙げられていますが,単に赤字だから是正しなかっただけのことでしょう。

      また,本件理由付記では,地裁判決文によれば,更正通知書の別紙「計上漏れ収益事業収入一覧表」において,事業年度ごとに,「清掃業務収入」「集金業務収入」「ごみ業務収入」等の区分に従い,契約等年月日及び委託契約等ごとに加算すべき収入金額の内訳が明らかにされていたとあります。

      
    そうすると,上記のように,「法人税法第2条第13号に規定する収益事業の収入に該当します」とだけ理由が付されていても,自ずと,「請負業」に当たるということであろうと考えることができる,といってもおかしくないと思います。

    (2) この点,高裁判決は,本件で「行政処分庁の判断の慎重,合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える必要があるのは,主として,本件各事業が実費弁償により行われているといえるのか,実費弁償通達が適用されるのかとの点にあったものと考えられる」としています。

      しかしながら,控訴人(財団法人X)が実費弁償であると主張するのは,市からの借入金の返済です。損益取引ではありません。このような借入金の返済が収益事業判定を左右する「実費弁償」に当たるという主張は,法人の損益取引から認識される「所得」に対して課税するという法人税法の体系からして,非常に無理のある主張だと思います(おそらく,納税者側の代理人も無理を承知で主張しているのでしょう)。

      このような無理筋の主張に対して,逐一,反論を記載しなければ,法人税法130条2項の理由付記の要件を満たさないことになるのかは疑問です。私には,「納税者が,1+1は5であると主張している以上,1+1は,なぜ,5ではなく,2になるのか」を記載しなければ理由付記として違法である,と高裁が言っているようにも思えてしまいます。

    (3) ちなみに,第一審判決では,収益事業該当性について,「原告は本件各事業年度において本件各事業によって毎年約1億円の収益を上げているのであって,本件各事業が実費弁償により行われているといえないことは明らかである。」「本件各事業と同種の事業を営む営利法人等においては,得られた委託料収入から必要な経費を控除してもなお残額がある場合には法人税が課されるのであって,そのことはその残額を原資として借入金を返済する場合であっても何ら変りがない。原告の主張は,結局,その営む事業に係る収入から必要な経費を差し引いた剰余金を原資として借入金を返済する場合において,営利法人よりも公益法人等を有利に扱うことを意味しており,法人税法7条が公益法人等と営利法人との間で競争条件の平等を図り,課税の公平を確保するために公益法人等についても収益事業については課税をすることとしている趣旨に反するというほかない」と判示しており,説得力があると思います。

    (4)  なお,上記の東京地裁平成22年4月22日判決では,「原告は,上記の通知書には,原告が税務調査の段階で行った詳細な主張に対する応答がなく,結論を示しているにすぎないものであって,説明義務を尽くしていない不備なものであるから,理由付記に違法があると主張する。しかしながら,前記の理由付記制度の趣旨目的からすると,納税者が税務調査の段階で主張したことに対して,更正処分庁が更正処分の通知書において逐一回答しなければならないものではないことは明らかである」としています。

    (5) 本件は,国側が上告せず,確定しています。税額にすると,本税(法人税)だけで毎期2000万円から3000万円程度で,4期分の処分なので,わずかばかりの理由付記をしなかっただけで合計1億3200万円ほどの課税処分が取り消されたことになります。

      国側が上告しなかった理由は,確かに本件の理由付記がかなりあっさりしており,最高裁でも逆転できるか分からなかった,というものかも知れませんが,それだけでなく,結局のところ財団法人Xの資金は市(東大阪市)と紐付きであり,実質的には,原処分が取り消されても国と市での税金の取り合いに過ぎないという考慮もはたらいた可能性があると思います。

     国側が敗訴判決に対して上訴をしない事例はまま見られますが,その判断過程は外部には明らかにされません。
     この事例に限らず,地裁,高裁段階で国側が敗訴し,上訴せず確定している裁判事例の射程範囲は慎重に考えた方がよいと思います。