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本間合同法律事務所
弁護士・税理士 坂 田 真 吾

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米国デラウェア州法に基づいて設立されたリミテッド・パートナーシップが行う投資事業に出資した者につき,同人の所得の金額を計算するに当たり,当該事業により生じた損失の金額を同人の所得の金額から控除することはできないとされた事例(最高裁平成27年7月17日判決)
(h27/7/20更新)

はじめに
  1. 専門家の間では非常に注目されていた節税スキーム事案の最高裁判決です。
     
  2. 節税スキームの概要は,
  • 個人(資産家)が,外国で組成されたリミテッド・パートナーシップ(LPS)が行う不動産の賃貸事業に係る投資事業に出資する
     
  • 当該個人は,当該不動産の賃貸事業に係る減価償却費を,必要経費に計上し,不動産所得(所得税法26条1項)の金額の計算上生じた損失の金額を他の所得の金額から控除する(所得税法69条1項の損益通算)

  というものです。

  • 実際のキャッシュフローなどは,

  ・出資金は1口当たり2000万円
  ・7年間の賃貸事業による現金収入が360万円余
  ・7年後の不動産の売却による現金収入が541万円余
  ・上記節税スキームにより,投資者が本来負担すべき所得税・住民税が合計2350万円余軽減される

 という想定で販売されていた商品です。

問題の所在
  1.  LPSが行う不動産賃貸事業により生じた所得がLPSに帰属するのか,出資者個人に帰属するのかが問題となります。納税者(出資者)は,出資者個人に帰属し,出資者個人が不動産賃貸業を営んでいることになるから,当該事業に係る必要経費は不動産所得に係る必要経費として損益通算の対象となると主張していました。
     
  2.  この問題を検討する前提として,LPSが「法人」であり,不動産賃貸業により生じた所得がLPSに帰属し,個人に帰属しないと言えるのかが争点となっています。

     同種の問題は,これまでも,LLC(リミテッド・ライアビリティー・カンパニー)についても問題となっており,「法人」該当性をどのように判断するのかという点について様々な裁判例や学説が出ていました。

     今回の判決は,LPSについての初めての最高裁判決であり,かつ,この種の問題の法人該当性についての最高裁の初判断であり,今後の実務に影響を与えると考えられます。

 

最高裁判決

 少し長いのですが,そのまま引用します。

 

  •  本件においては,本件各LPSが行う本件各不動産賃貸事業により生じた所得が本件各LPS又は本件出資者らのいずれに帰属するかが争われているところ,複数の者が出資をすることにより構成された組織体が事業を行う場合において,その事業により生じた利益又は損失は,別異に解すべき特段の事情がない限り,当該組織体が我が国の租税法上の法人に該当するときは当該組織体に帰属するものとして課税上取り扱われる一方で,当該組織体が我が国の租税法上の法人に該当しないときはその構成員に帰属するものとして課税上取り扱われることになるから,本件における上記の所得の帰属を判断するに当たっては,本件各LPSが所得税法2条1項7号及び法人税法2条4号(以下「所得税法2条1項7号等」という。)に共通の概念として定められている外国法人として我が国の租税法上の法人に該当するか否かが問題となる。
     
  •   我が国の租税法は組織体のうちその構成員とは別個に租税債務を負担させることが相当であると認められるものを納税義務者としてその所得に課税するものとしているところ,ある組織体が法人として納税義務者に該当するか否かの問題は我が国の課税権が及ぶ範囲を決する問題であることや,所得税法2条1項7号等が法人に係る諸外国の立法政策の相違を踏まえた上で外国法人につき「内国法人以外の法人」とのみ定義するにとどめていることなどを併せ考慮すると,我が国の租税法は,外国法に基づいて設立された組織体のうち内国法人に相当するものとしてその構成員とは別個に租税債務を負担させることが相当であると認められるものを外国法人と定め,これを内国法人等とともに自然人以外の納税義務者の一類型としているものと解される。このような組織体の納税義務に係る制度の仕組みに照らすと,外国法に基づいて設立された組織体が所得税法2条1項7号等に定める外国法人に該当するか否かは,当該組織体が日本法上の法人との対比において我が国の租税法上の納税義務者としての適格性を基礎付ける属性を備えているか否かとの観点から判断することが予定されているものということができる。そして,我が国においては,ある組織体が権利義務の帰属主体とされることが法人の最も本質的な属性であり,そのような属性を有することは我が国の租税法において法人が独立して事業を行い得るものとしてその構成員とは別個に納税義務者とされていることの主たる根拠であると考えられる上,納税義務者とされる者の範囲は客観的に明確な基準により決せられるべきであること等を考慮すると,外国法に基づいて設立された組織体が所得税法2条1項7号等に定める外国法人に該当するか否かについては,上記の属性の有無に即して,当該組織体が権利義務の帰属主体とされているか否かを基準として判断することが相当であると解される。
     
  •  その一方で,諸外国の多くにおいても,その制度の内容の詳細には相違があるにせよ,一定の範囲の組織体にその構成員とは別個の人格を承認し,これを権利義務の帰属主体とするという我が国の法人制度と同様の機能を有する制度が存在することや,国際的な法制の調和の要請等を踏まえると,外国法に基づいて設立された組織体につき,設立根拠法令の規定の文言や法制の仕組みから,日本法上の法人に相当する法的地位が付与されていること又は付与されていないことが疑義のない程度に明白である場合には,そのことをもって当該組織体が所得税法2条1項7号等に定める外国法人に該当する旨又は該当しない旨の判断をすることが相当であると解される。
     
  •  以上に鑑みると,外国法に基づいて設立された組織体が所得税法2条1項7号等に定める外国法人に該当するか否かを判断するに当たっては,まず,より客観的かつ一義的な判定が可能である後者の観点として,①当該組織体に係る設立根拠法令の規定の文言や法制の仕組みから,当該組織体が当該外国の法令において日本法上の法人に相当する法的地位を付与されていること又は付与されていないことが疑義のない程度に明白であるか否かを検討することとなり,これができない場合には,次に,当該組織体の属性に係る前者の観点として,②当該組織体が権利義務の帰属主体であると認められるか否かを検討して判断すべきものであり,具体的には,当該組織体の設立根拠法令の規定の内容や趣旨等から,当該組織体が自ら法律行為の当事者となることができ,かつ,その法律効果が当該組織体に帰属すると認められるか否かという点を検討することとなるものと解される。
     
  •  これを本件についてみるに,州LPS法は,同法に基づいて設立されるリミテッド・パートナーシップがその設立により「separate legal entity」となるものと定めているところ(201条(b)項),デラウェア州法を含む米国の法令において「legal entity」が日本法上の法人に相当する法的地位を指すものであるか否かは明確でなく,また,「separate legal entity」であるとされる組織体が日本法上の法人に相当する法的地位を有すると評価することができるか否かについても明確ではないといわざるを得ない。そして,デラウェア州一般会社法( General Corporation Law of the State of Delaware ) に お け る 株 式 会 社(corporation)については,「a body corporate」という文言が用いられ(同法106条),「separate legal entity」との文言は用いられていないことなども併せ考慮すると,上記のとおり州LPS法において同法に基づいて設立されるリミテッド・パートナーシップが「separate legal entity」となるものと定められていることをもって,本件各LPSに日本法上の法人に相当する法的地位が付与されているか否かを疑義のない程度に明白であるとすることは困難であり,州LPS法や関連法令の他の規定の文言等を参照しても本件各LPSがデラウェア州法において日本法上の法人に相当する法的地位を付与されていること又は付与されていないことが疑義のない程度に明白であるとはいい難い
     
  •  そこで,本件各LPSが法人該当性の実質的根拠となる権利義務の帰属主体とされているか否かについて検討するに,州LPS法は,リミテッド・パートナーシップにつき,営利目的か否かを問わず,一定の例外を除き,いかなる合法的な事業,目的又は活動をも実施することができる旨を定めるとともに(106条(a)項),同法若しくはその他の法律又は当該リミテッド・パートナーシップのパートナーシップ契約により付与された全ての権限及び特権並びにこれらに付随するあらゆる権限を保有し,それを行使することができる旨を定めている(同条(b)項)。このような州LPS法の定めに照らせば,同法は,リミテッド・パートナーシップにその名義で法律行為をする権利又は権限を付与するとともに,リミテッド・パートナーシップ名義でされた法律行為の効果がリミテッド・パートナーシップ自身に帰属することを前提とするものと解され,このことは,同法において,パートナーシップ持分(partnership interest)がそれ自体として人的財産(personalproperty)と称される財産権の一類型であるとされ,かつ,構成員であるパートナーが特定のリミテッド・パートナーシップ財産(以下「LPS財産」という。)について持分を有しない(A partner has no interest in specific limitedpartnership property.)とされていること(701条)とも整合するものと解される。なお,本件各LPS契約において,本件各LPSが本件各建物及びその敷地の購入,取得,開発,保有,賃貸,管理,売却その他の処分の目的のみのために設立され,当該目的を実施するために必要又は有益な範囲で上記の処分の権限を有すると定められていること(1.3条)は,上記のような州LPS法の規律に沿うものということができ,構成員である各パートナーが本件各LPSのLPS財産につき各自の出資割合に相当する不可分の持分を有すると定められていること(4.5条)についても,LPS財産の全体に係る抽象的な権利を有する旨をいうものにとどまり,本件各LPSのLPS財産を構成する個々の物や権利について具体的な持分を有する旨を定めたものとは解されず,パートナーが特定のLPS財産について持分を有しないとする州LPS法の上記規定の定めとそごするものではないということができる。

     上記のような州LPS法の定め等に鑑みると,本件各LPSは,自ら法律行為の当事者となることができ,かつ,その法律効果が本件各LPSに帰属するものということができるから,権利義務の帰属主体であると認められる
     
  •  そうすると,本件各LPSは,上記のとおり権利義務の帰属主体であると認められるのであるから,所得税法2条1項7号等に定める外国法人に該当するものというべきであり,前記2(1)のとおり,本件各不動産賃貸事業は本件各LPSが行うものであり,前記(1)アの特段の事情の存在もうかがわれないことなどからすると,本件各不動産賃貸事業により生じた所得は,本件各LPSに帰属するものと認められ,本件出資者らの課税所得の範囲には含まれないものと解するのが相当である。
     
  •  したがって,本件出資者らは,本件各不動産賃貸事業による所得の金額の計算上生じた損失の金額を各自の所得の金額から控除することはできないというべきである。
検討
  1.  本判決は,まず,「外国法に基づいて設立された組織体が所得税法2条1項7号等に定める外国法人に該当するか否かは,当該組織体が日本法上の法人との対比において我が国の租税法上の納税義務者としての適格性を基礎付ける属性を備えているか否かとの観点から判断することが予定されているものということができる。」とし,「日本法上の法人との対比」を重視しています。

     その上で,日本法では,法人の最も本質的な属性として,「権利義務の帰属主体とされること」をあげています。

    この判決には,下級審や学説で議論されてきた「損益の帰属主体」か否かを基準とするという表現は登場しません。

     この点,東京高裁平成25年3月13日判決は,「課税に関しては,損益が事業体の構成員に帰属すると擬制することもあることからすると,当該事業体が法人に該当するか否かを判断するに当たり,当該事業体が損益の帰属すべき主体として設立が認められたものであるかどうか(中略)を判断基準にすることは,不要であるといわざるを得ない。」と判示しています。

     なお,タックス・ヘイブン対策税制において,特定外国子会社等の欠損の金額を内国法人の損金の額に算入することが認められるかという問題についてこれを否定した最高裁平成19年9月28日判決では,古田佑紀裁判官の補足意見で,「法人は,法律により,損益の帰属すべき主体として設立が認められるものであり,その事業として行われた活動に係る損益は,特殊な事情がない限り,法律上その法人に帰属するものと認めるべきもの」という表現があります。今回の最高裁判決からすれば,当該補足意見は権利義務の帰属を前提に損益の帰属すべき主体として法人を表現したものであって,損益の帰属すべき主体か否かによって法人該当性が判定されるべきことまでを述べたものではない,ということになるのでしょう。
     
  2.  一方で,最高裁は,判断枠組みとしては,次の二つの手順を示しています。

     ①当該組織体に係る設立根拠法令の規定の文言や法制の仕組みから,当該組織体が当該外国の法令において日本法上の法人に相当する法的地位を付与されていること又は付与されていないことが疑義のない程度に明白であるか否かを検討する

    これができない場合には,

     ②当該組織体が権利義務の帰属主体であると認められるか否かを検討して判断すべきものであり,具体的には,当該組織体の設立根拠法令の規定の内容や趣旨等から,当該組織体が自ら法律行為の当事者となることができ,かつ,その法律効果が当該組織体に帰属すると認められるか否かという点を検討する
     
  3.  ①の枠組みも,理由付けとして,「諸外国の多くにおいても,その制度の内容の詳細には相違があるにせよ,一定の範囲の組織体にその構成員とは別個の人格を承認し,これを権利義務の帰属主体とするという我が国の法人制度と同様の機能を有する制度が存在することや,国際的な法制の調和の要請等を踏まえると」とされているので,「権利義務の帰属主体」という判断基準がはたらいていることは明らかであると思います

     ①,②いずれも「権利義務の帰属主体」という判断基準を重視しているとすれば,①,②の枠組みはどのように区別されるのかという疑問が生じると思います。

     最高裁判決の①のあてはめを見ると,デラウェア州LPS法による「separate legal entity」という概念が日本法上の法人に相当する法的地位を有すると評価することができるか否かは明確ではないし,デラウェア州一般会社法における株式会社は「a body corporate」という文言が用いられており,「separate legal entity」との文言は用いられていないから,①は判断できないとしています。 

     その上で,②の当てはめでは,LPSの名義で法律行為をする権利,権限があり,法律効果がLPS自身に帰属し,構成員がLPS財産について持分を有しないこと等から,LPSは権利義務の帰属主体であるとしています。

     そうすると,イメージとしては,①の判断枠組みは,形式的に,日本法でも権利義務の帰属主体であるとのとして「法人」と認めることに疑義がない(米国の)株式会社等との比較を行い,②の判断枠組みは,当該組織体の個別の権利義務関係を判定している,というように捉えることになるのだろうと思われます。
     
  4.  なお,本判決は,一般論部分で法人の本質的な属性として「権利義務の帰属主体」であることをあげ,法人の事業により生じた利益又は損失は,「別異に解すべき特段の事情がない限り」法人に基属するとしています。あてはめでも,本件のLPSが権利帰属の帰属主体と認められ,外国法人に該当し,不動産賃貸業はLPSが行うものであり,「前記(1)アの特段の事情」の存在もうかがわれないことなどからすると,所得がLPSに帰属するとしています。

     すなわち,最高裁判決は,権利義務の帰属主体を重視しつつ,「特段の事情」という一定の留保を,最終的な損益の帰属(所得の帰属)判断に設定しており,しかも,その「特段の事情」の内容は判決文からは明らかではありません。当該「特段の事情」は,法人が形骸化していて所得は個人に帰属しているような場合,実質所得者課税(所得税法12条)の場合のような限定的な場合を想定していると解するのが素直だと思いますが,そうではなく何らかの含意があるのか,少し気になるところではあります。
加算税について
  1.  本件では,本税(所得税)は納税者の主張を排斥していますが,過少申告加算税に係る「正当な理由」(国税通則法65条4項)の有無については,原審に差戻しをしています。
  2.  法令の解釈が複数あり得る場合に,納税者に有利な解釈によって申告したことに正当な理由があるとして過少申告加算税の賦課決定処分を取り消した例としては,ストック・オプションに係る最高裁判決(最高裁平成18年10月24日判決)や,最近でも,最高裁平成27年6月12日判決(航空機リース事業に係る匿名組合契約に基づき匿名組合員が営業者から受ける利益の分配に係る所得区分についての通達の変更を理由に正当理由を認めた事例)があります。