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本間合同法律事務所
弁護士・税理士 坂 田 真 吾

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債務免除益訴訟と今後の最高裁の判断
(R8/4/10更新)

はじめに

 

 税のしるべ(令和8年4月6日)に、「債務免除益訴訟 弁論を開催へ」という記事が掲載されていました。

 事案としては、被相続人と金融機関との間の裁判上の和解により、一部の分割金の支払後に残債務を債務免除することとされた債務を承継した相続人が、当該分割金の支払いを終えて残債務を債務免除されたことが一時所得に該当するかが争われたものです。

 地裁判決(東京地裁令和5年3月14日判決。納税者一部勝訴)は、一時所得に該当するとし、高裁判決(東京高裁令和6年1月25日判決。納税者全部勝訴)は、当該債務免除に係る相続人の利益については所得税課税との関係では潜在的には相続により取得していたものと見ることが可能であるとし、これに所得税の課税をすることは、同一の経済的価値に対する相続税等と所得税の二重課税を排除する趣旨と解される所得税法9条1項16号(令和3年法律第11号による改正前)に反するものとして許されないとしています。

 最高裁のHPによれば、令和8年5月29日が弁論期日とされています。

 

  

私見


 本件について、専門誌に私見を寄稿したことがあります(「一部の分割金の支払後に残債務を債務免除するとされた債務を承継した相続人が残債務の債務免除を受けたことと一時所得該当性」(税研 2025年1月号・No.239))。

  事案はやや複雑なのですが、上記の、「被相続人と金融機関との間の裁判上の和解により、一部の分割金の支払後に残債務を債務免除することとされた債務」というのは、①平成5年に認知症に罹患していた個人Aの名義でその子B(本件の被相続人)が銀行から16億円を借りてマンションを購入したところ、②価値が低下して借入金の支払いができなくなり、銀行がAを被告として平成14年に訴訟を提起したが(Aは訴訟中に逝去しBらが承継)、③平成16年にBらと銀行との裁判上の和解が成立し、16億円の債務の存在は確認しつつ、Bが銀行にマンション売却代金相当額(価値が低下しており約4億円)その他の分割金の支払いをしたら、残額(約9.7億円)は債務免除することとしていた、というもののようです。

  そして、Bが平成26年に逝去した後に、その相続人は銀行に分割金の支払を終え、平成28年に債務免除(約9.7億円)を受けました。課税庁は、当該債務免除益が一時所得に該当するとして所得税の更正処分を行いました。

  上記のとおり、地裁判決はこれを一時所得に該当するとしました。高裁判決は、最高裁平成22年7月6日判決(いわゆる長崎年金二重課税事件)と同様、所得税を課すことはできないとして納税者勝訴としました。

  私見としては、地裁判決、高裁判決の論理はいずれも疑問があります。

 すなわち、地裁判決の事実認定からすると、平成16年の裁判上の和解の際に裁判所が見解を示しており、平成5年の16億円の貸付け当時、Aは認知症で意思能力を欠き、BにはAの代理権がなく、貸付やマンションの売買契約の効果はAに帰属しないことが示されていたとのことです。

 そうだとすると、Aは、金銭消費貸借契約に基づいて貸付金(16億円)の返還義務を負うのではなく、法律上の原因なく他人の財産によって利得を受けた者として、不当利得返還義務を負うに留まるはずです。

 そして、Aは善意の受益者でしょうから、銀行より訴訟を提起された平成14年当時、民法703条に基づき、「その利益の存する限度」(現存利益)についてのみ返還義務を負っていたものと考えられます。したがって、Aには16億円の返還義務はなく、価値が低下したマンションの時価(約4億円)の限度でしか、債務を負っていません。

 だからこそ、平成16年の裁判上の和解で、一定の金額を支払ったら残額(諸々の計算等により、約9.7億円)を債務免除するという和解となったと思われますし、その後、法形式上は債務免除がなされたとしても、そもそもその残額の債務は法律上の義務がなかった債務なので、これを債務免除しても、税務上の所得にはならないはずであろう、というのが私見です。

 要するに、債務免除という私法上の法律行為は、基本的には税務上も所得を発生させるのでしょうが、一定の場合には発生させないこともあり、本件はその場合に該当するのではないか、ということです。

  したがって、今後の最高裁の判決は、地裁判決、高裁判決と全く異なる理由により納税者勝訴判決となるのではないか、と考えています(ないしはさらに事実認定を尽くさせるべく破棄差戻し)。

終わりに

 本件は専門家の間でも注目されており、以上の拙い予測があたるかどうか分かりませんが、最高裁がどのような判断をするのか、興味深いです。