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本間合同法律事務所
弁護士・税理士 坂 田 真 吾

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税務弘報に寄稿しました(郵便切手類に関する消費税の課税関係)
(r6/6/25更新)

はじめに

  

​ 税務弘報2024年5月号に、拙稿「郵便切手類に関する消費税の課税関係について
(税負担の累積は許されるのか)」を掲載してもらいました。

 ご興味があれば詳細は拙稿をご覧頂ければと存じますが、要旨を述べれば次のとおりです。

問題の所在
  1. 問題の所在


     消費税において、前段階での仕入に含まれていた税額を控除すること(仕入税額控除)は、消費税が附加価値税の性質をもちうるために最も重要な要素であると説明されています。
     

     しかしながら、郵便局から、郵便切手類を購入した事業者(たとえば年賀葉書の印刷業者や金券業者)が、これを他に譲渡した場合に、課税庁の法解釈を前提にする限り、税負担の累積が生じてしまいます。
     

  2. 消費税法の規定と課税庁の解釈

     消費税法上、郵便局等の場所における郵便切手類の譲渡は非課税取引とされています(消費税法6条1項、同法別表第二第四号イ参照)。

     したがって、事業者が郵便局から郵便切手や葉書を購入した時には課税仕入れには該当しないのですが、役務の提供を受けた時に、役務の提供を受けた事業者の課税仕入れとなるとされています(消費税法基本通達11-3-7)。

     一方で、郵便局等以外の場所において、すなわち、民間の印刷業者や金券業者が郵便切手類を販売する場合には、課税庁は、これを課税取引とすると解してます(消費税法基本通達6-4-1)。
     

  3. 不合理な税負担の累積

     この帰結として、たとえば、年賀葉書の印刷業者が、郵便局から郵便葉書を定価(A円)で購入し、一定の印刷代金(B円)を加えてエンドユーザーに販売した場合に、消費税の附加価値税の性質からすれば、B円に係る消費税負担さえあれば十分であるにもかかわらず、A円+B円に係る消費税の負担を求められることになります。

     そして、実際に役務提供された際には、譲渡をした郵便局にもA円(の課税売上げ)に係る消費税について納税義務が生じるのですから、結局、国は、郵便局と印刷業者等から、A円に係る消費税を二重取りしてしまうことになります。

検討

  1. 非課税規定の立法趣旨

     上記の非課税規定の立法趣旨は次のようなものと考えられます。


     ・消費税法の建て付けからすると、郵便切手類も「資産」であるから、郵便局がこれを譲渡した場合には、原則的には、課税取引となるはずである。

     ・しかし、これを販売する郵便局から見れば、未だ郵便物の配送という役務提供をしていない。郵便切手は、郵便に関する料金を表す証票であり、郵便に関する料金は、郵便切手で前払いをしなければならない(郵便法28条、29条)ものであって、この郵便切手の譲渡をもって課税取引とするのは、実態と合わない。

     ・したがって、消費税法は、例外的に、郵便局等の場所における郵便切手類の譲渡の段階は非課税取引とした(立法趣旨の説明は、DHCコンメンタールを見ても判然としないのですが、詳細は拙稿をご参照ください)。
     

  2. 立法の疑問

     しかしながら、このような、役務提供までは非課税取引とするという立法趣旨を敷衍すれば、郵便局等でなく、民間の事業者が郵便切手類を譲渡した場合にも、非課税取引とする旨の規定が設けられてしかるべきであったように思います。

      そのような規定があれば、当該事業者が郵便局から郵便切手類を購入し、他に販売した場合に、税負担の累積が生じることを防止することができます。
     
  3. 課税庁の悩み

     この点、課税庁も、このような税負担の累積が不合理であり酷であると考えていることがうかがえる取扱いを公表しています。

     すなわち、国税庁質疑応答事例(「印刷業者が郵便葉書に印刷を行う場合」)においては、印刷業者において、郵便局から購入して在庫としている郵便葉書に、企業や個人からの注文に応じて、企業名等を印刷して注文者である企業や個人に引き渡した場合の消費税の取扱いについて、「注文者から収受する対価の全額が課税の対象となります。ただし、印刷業者において、郵便局から購入した郵便葉書について仮払金として経理し、注文者への請求の際には郵便葉書の代金と印刷代金とを区分の上、郵便葉書の代金について立替金として請求している場合には、印刷代金のみを課税の対象として取り扱います。」と回答しています。

     当該取扱いによれば、印刷業者が注文者から収受する対価の額のうち、郵便葉書相当の代金(上記A円)が、立替金であると認められる場合には、課税対象外(不課税)として扱われることから、税負担の累積が生じないこととなります。

     ただ、厳密に言えば、上記質疑応答事例のように、印刷業者が「郵便局から購入して在庫としている郵便葉書に、企業や個人からの注文に応じて、企業名等を印刷して注文者である企業や個人に引き渡した場合」には、郵便局からの購入の時点では注文者との間では何らの立替払の合意もないことがむしろ通常であり、仕入れて在庫とした商品(郵便葉書)を加工(印刷)して販売するのであるから、私法上は立替払いとみることは困難とも思われます。そうであっても、上記質疑応答事例は、一定の経理処理等をしたという外形のみによって、立替払であると割り切って処理をすることを便宜的に認め、税負担の累積という不合理な結果を回避させるものと理解できるように思われます。
     
  4. あるべき解決策

     しかし、上記質疑応答事例のように立替金と認められなければ税負担の累積が余儀なくされるというのも不合理であると思います。

     法解釈論としては、消費税法別表第二第4号イの類推適用により、民間の事業者による郵便切手類の譲渡も非課税取引に該当すると解すべきと考えます。

      また、立法論としては、


    ・消費税法別表第二第4号イを廃止し、物品切手と同様に扱う方法
    (商品券等の物品切手(同号ハ)であれば、発行段階では不課税、事業者が他の者に譲渡した場合には非課税、実際に商品券が使用された場合に課税、となり、税負担の累積が生じません)

    ・消費税法別表第二第4号イを廃止し、郵便局等の場所における郵便切手類の譲渡も、(課税資産の譲渡として)課税取引として扱う方法
    (そうすれば、税負担の累積が生じません)
     

    というものもありえると考えます。

 

郵便局に益税が生じている?


 なお気になるのが郵便局側の処理です。

 現行法では、郵便切手類の譲渡時には非課税売上げ、実際に郵便物を配送したときには課税売上げとすることになりますが、いったい、日本郵便株式会社は、日々膨大な量の販売が行われる郵便切手類について、郵便物の配送として使用されたものとそうでないものとを、どのように集計し、区別し、課税売上げとして計上しているのでしょうか。

 厳密に行うとすれば極めて煩瑣な調査、統計、計算が必要となると思われますが、そうではなく、実際には推計的な手法を用いて算出しているのでしょうか。そうであれば、なぜ、推計的な手法が許容されるのでしょうか(課税庁と日本郵便株式会社との間で何らかの取決めがあるのでしょうか)。

 さらに、日本郵便株式会社が収受する一定の金額が非課税のままとなっているとしたら、同社に一種の益税(消費者の支払った消費税相当額が国庫に入っていないこと)が生じていることになるのでないでしょうか。同社は、郵便切手類の購入者から、消費税込みの金額を郵便料金として受領しています。郵便切手には使用期限がありませんが、事実上、相当多数のものが半永久的ないし永久的に未使用のままとなっていると考えられます。購入者から消費税相当額を受領しているにもかかわらず非課税のままとなっており消費税を納税していないとしたら、それは正当化されることなのでしょうか。

 不合理な益税が生じているとしたら、以上に述べたとは別の立法政策的な理由にて、やはり郵便局等による郵便切手類の譲渡を非課税とする現行法の扱いは見直されるべきではないのでしょうか。

 それとも、日本郵便株式会社においても、郵便切手類の譲渡時に収受した金員は、(消費税法の規定どおりではなく)全額課税売上げとして計上し、消費税を納税しているのでしょうか。そうであれば、なおさら、仕入側も課税仕入れとすることを認めるべきことになると思われます。

    終わりに

     

     消費税では、しばしば税負担の不合理な累積が生じる事象があり、本件のような場合もその一例ですので、裁判所、課税庁、立法府が適切な対応をするべきと考えます。