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本間合同法律事務所
弁護士・税理士 坂 田 真 吾
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税務弘報2024年5月号に、拙稿「郵便切手類に関する消費税の課税関係について
(税負担の累積は許されるのか)」を掲載してもらいました。
ご興味があれば詳細は拙稿をご覧頂ければと存じますが、要旨を述べれば次のとおりです。
消費税において、前段階での仕入に含まれていた税額を控除すること(仕入税額控除)は、消費税が附加価値税の性質をもちうるために最も重要な要素であると説明されています。
しかしながら、郵便局から、郵便切手類を購入した事業者(たとえば年賀葉書の印刷業者や金券業者)が、これを他に譲渡した場合に、課税庁の法解釈を前提にする限り、税負担の累積が生じてしまいます。
消費税法の規定と課税庁の解釈
消費税法上、郵便局等の場所における郵便切手類の譲渡は非課税取引とされています(消費税法6条1項、同法別表第二第四号イ参照)。
したがって、事業者が郵便局から郵便切手や葉書を購入した時には課税仕入れには該当しないのですが、役務の提供を受けた時に、役務の提供を受けた事業者の課税仕入れとなるとされています(消費税法基本通達11-3-7)。
一方で、郵便局等以外の場所において、すなわち、民間の印刷業者や金券業者が郵便切手類を販売する場合には、課税庁は、これを課税取引とすると解してます(消費税法基本通達6-4-1)。
不合理な税負担の累積
この帰結として、たとえば、年賀葉書の印刷業者が、郵便局から郵便葉書を定価(A円)で購入し、一定の印刷代金(B円)を加えてエンドユーザーに販売した場合に、消費税の附加価値税の性質からすれば、B円に係る消費税負担さえあれば十分であるにもかかわらず、A円+B円に係る消費税の負担を求められることになります。
そして、実際に役務提供された際には、譲渡をした郵便局にもA円(の課税売上げ)に係る消費税について納税義務が生じるのですから、結局、国は、郵便局と印刷業者等から、A円に係る消費税を二重取りしてしまうことになります。
・消費税法の建て付けからすると、郵便切手類も「資産」であるから、郵便局がこれを譲渡した場合には、原則的には、課税取引となるはずである。
・しかし、これを販売する郵便局から見れば、未だ郵便物の配送という役務提供をしていない。郵便切手は、郵便に関する料金を表す証票であり、郵便に関する料金は、郵便切手で前払いをしなければならない(郵便法28条、29条)ものであって、この郵便切手の譲渡をもって課税取引とするのは、実態と合わない。
・したがって、消費税法は、例外的に、郵便局等の場所における郵便切手類の譲渡の段階は非課税取引とした(立法趣旨の説明は、DHCコンメンタールを見ても判然としないのですが、詳細は拙稿をご参照ください)。
・消費税法別表第二第4号イを廃止し、物品切手と同様に扱う方法
(商品券等の物品切手(同号ハ)であれば、発行段階では不課税、事業者が他の者に譲渡した場合には非課税、実際に商品券が使用された場合に課税、となり、税負担の累積が生じません)
・消費税法別表第二第4号イを廃止し、郵便局等の場所における郵便切手類の譲渡も、(課税資産の譲渡として)課税取引として扱う方法
(そうすれば、税負担の累積が生じません)
というものもありえると考えます。
なお気になるのが郵便局側の処理です。
現行法では、郵便切手類の譲渡時には非課税売上げ、実際に郵便物を配送したときには課税売上げとすることになりますが、いったい、日本郵便株式会社は、日々膨大な量の販売が行われる郵便切手類について、郵便物の配送として使用されたものとそうでないものとを、どのように集計し、区別し、課税売上げとして計上しているのでしょうか。
厳密に行うとすれば極めて煩瑣な調査、統計、計算が必要となると思われますが、そうではなく、実際には推計的な手法を用いて算出しているのでしょうか。そうであれば、なぜ、推計的な手法が許容されるのでしょうか(課税庁と日本郵便株式会社との間で何らかの取決めがあるのでしょうか)。
さらに、日本郵便株式会社が収受する一定の金額が非課税のままとなっているとしたら、同社に一種の益税(消費者の支払った消費税相当額が国庫に入っていないこと)が生じていることになるのでないでしょうか。同社は、郵便切手類の購入者から、消費税込みの金額を郵便料金として受領しています。郵便切手には使用期限がありませんが、事実上、相当多数のものが半永久的ないし永久的に未使用のままとなっていると考えられます。購入者から消費税相当額を受領しているにもかかわらず非課税のままとなっており消費税を納税していないとしたら、それは正当化されることなのでしょうか。
不合理な益税が生じているとしたら、以上に述べたとは別の立法政策的な理由にて、やはり郵便局等による郵便切手類の譲渡を非課税とする現行法の扱いは見直されるべきではないのでしょうか。
それとも、日本郵便株式会社においても、郵便切手類の譲渡時に収受した金員は、(消費税法の規定どおりではなく)全額課税売上げとして計上し、消費税を納税しているのでしょうか。そうであれば、なおさら、仕入側も課税仕入れとすることを認めるべきことになると思われます。
消費税では、しばしば税負担の不合理な累積が生じる事象があり、本件のような場合もその一例ですので、裁判所、課税庁、立法府が適切な対応をするべきと考えます。