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本間合同法律事務所
弁護士・税理士 坂 田 真 吾

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税理士が押さえておくべき近時の民法改正(債権法、相続法、所有者不明土地等)
(r5/6/9更新)

はじめに

 本年5月15日に、日本税務会計学会(税法部会)にて、「税理士が押さえておく
べき近時の民法改正(債権法、相続法、所有者不明土地等)」というテーマで研
修講師を担当させていただきました。

 

 ここ数年の主な民法改正(相続関係、債権関係、所有者不明土地等関係)につ

いて、税理士業務に関連する箇所を整理してお伝えしました。

 

 主な内容は次のとおりです。

  

相続法関係
  • 自筆証書遺言関係等

・自筆証書遺言の目録については自筆でなくパソコン、登記事項証明書等をも
って作成することが認められること。


・自筆証書遺言について、法務局での保管制度が創設されたこと。

  • 相続された預貯金についての仮払い制度

最高裁平成28年12月19日決定・民集70巻8号2121頁によって預貯金債権は遺産
分割の対象に含まれるとされたこと(判例変更)から、(1)家庭裁判所の判断を
経ずに払戻しが得られる制度の創設(金融機関ごとに150万円が限度)、(2)保全
処分の要件緩和がなされたこと。

 

  • 配偶者居住権

・配偶者居住権(遺贈、遺産分割、家庭裁判所の遺産分割審判によって、配偶
者に居住建物の無償使用を認める権利)、配偶者短期居住権(配偶者が相続開始
時に遺産に属する建物に居住していた場合に、遺産分割が終了するまでの間、無
償でその居住建物を使用できる権利という制度)が創設されたこと。


・配偶者居住権の評価については、法務省法制審議会が示した簡易な評価方法
が公表されており、相続税法もこれを踏襲していること。

具体的には、住宅価格-居住権付き住宅価格(現在価値割戻し)=居住権価格
とすること。居住権付き住宅価格(現在価値割戻し)は、居住の負担が消滅する
将来の時点での価値を、現在価値に割り戻す方法で算出する。存続期間が配偶者
の終身の場合には、一種の割り切りとして平均余命の期間を用いること。


・配偶者居住権には小規模宅地等の特例の適用があること(租税特別措置法69
条の4関係(69の4-1の2))。


・配偶者居住権を使う場面としては、(1)配偶者以外の相続人が自己の法定相
続分の充足を強く主張するような場合に配偶者が居住建物を取得すると他の金融
資産等の財産を取得できなくなり、今後の生活に支障が生じる場合、(2)後継ぎ
遺贈のニーズを実現する場合等があること。


・配偶者居住権の消滅について、相続税法基本通達9-13の2《配偶者居住権が
合意等により消滅した場合》では、①建物の所有者との間の合意若しくは当該配
偶者による配偶者居住権の放棄等により消滅した場合には配偶者から所有者への
贈与として贈与税課税、②配偶者が死亡して配偶者居住権が消滅し、その結果と
して居住建物の所有者が使用・収益することができることとなっても、特段の課
税関係は生じないとしていること。


・配偶者居住権を消滅させて売却した場合の譲渡所得課税(総合課税の譲渡所
得として課税されること(配偶者敷地利用権は、措置法31条、32条の「土地の上
に存する権利」には該当しない。))(なお、上記のとおり、小規模宅地等の特
例においては、「土地の上に存する権利」に該当するものとして扱われること)

・相続開始時に居住建物の一部が賃貸されていた場合に、配偶者居住権の価額に
ついて、居住建物の一部が賃貸の用に供されている場合には当該部分を含めない
で計算することとしていること(相続税法23条の2第1項第1号及び相続税法施
行令5条の8第1項1号)。ただし、当該規定の合理性は疑問であること。
課税関係が不明瞭、不合理なので、収益物件についての配偶者居住権設定は慎重
に検討するべきこと。

  • 特別寄与料

・相続人でない被相続人の親族が被相続人の療養看護等をしたことにより被相続
人の財産の維持または増加について特別の寄与をした場合には、当該相続人でな
い親族自ら相続人に対して特別寄与料の請求をすることができることとしたこ
と。

・期間制限が厳しいこと(特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時か
ら六箇月、又は相続開始の時から一年)


・課税上は、特別寄与者が支払を受けるべき特別寄与料の額が確定した場合には、
当該特別寄与者が、当該特別寄与料の額に相当する金額を被相続人から遺贈によ
り取得したものとみなされ(相続税4条2項)、相続人が支払うべき特別寄与料の
額を、当該相続人に係る相続税の課税価格から控除することとされたこと。(相
続税法第13条、第21条の15)。

  • 遺留分制度

・法的性質が変化(金銭債権化)し、名称が「遺留分減殺請求権」から「遺留
分侵害額請求権」とされたこと。


・価額弁償の基準時が変更されたこと。


・遺留分を算定するための財産に含めるべき生前贈与の範囲が変更されたこと
(相続人に対する贈与(特別受益に限る)の価額は、原則として、相続開始前の
10年間にされたものに限り、遺留分を算定するための財産の価額に含めることと
された(新民法1044条3項))。


・税務上の扱いとしては、従前同様、(1)相続税申告の法定申告期限前に遺留分
侵害額請求権が行使されても、その支払金額が確定していないなら、当初申告で
はこれを無視して差し支えなく、(2)当初申告後に権利者が遺留分侵害額請求権
を行使しても、直ちに、これに応じた申告をする必要はなく、(3)当事者間の協
議や調停、訴訟で、遺留分侵害額請求に基づき支払うべき金銭の額が確定したな
らば、4ヶ月以内に、更正の請求をすることができる(相続税法32条)こと。


・遺留分権利者との合意により目的物を共有とした場合には、譲渡所得課税が生
じうること(所得税法基本通達33-1の6)。遺言と異なる遺産分割を行えば当該
課税は発生しないとも考えられること。

債権法関係
  • 消滅時効に関する見直し

・職業別短期消滅時効が廃止されたこと(旧170条から174条)


・一般の債権の場合に、「権利を行使することができる時から10年」に加えて、
「権利を行使することができることを知った時から5年」とされたこと(新166条
1項1号)。通常は、主観的起算点=客観的起算点なので、現行(10年間)に比べ
て消滅時効期間が半減したこと。


・商事消滅時効(商法522条)が廃止されたこと。


・中断、停止という概念が、完成猶予、更新という概念に変更されたこと

  • 法定利率に関する見直し

・旧法では民事5%(旧民法404条)、商事6%(旧商法514条)であったところ、
施行時(令和2年4月1日)に3%となり、その後、3年ごとに、1%単位で見直さ
れること。

  • 保証に関する見直し

・包括根保証の禁止の対象が拡大されたこと(個人根保証契約)


・事業用融資における第三者保証の制限として、公証人による意思確認手続きが
新設されたこと。


・情報提供義務の規定が設けられたこと(新465条の10、458条の2、458条の3)。

所有者不明土地等関係

 

  • 「所在等不明共有者」がいる場合の意思決定

 裁判所の決定により、共有物の変更、管理がなし得ること(所在等不明共有者を、
変更や管理に関する意思決定から除外することができること)

  • 「賛否不明共有者」がいる場合の意思決定

 裁判所の決定により、賛否不明共有者以外の共有者の持分価格の過半数で管理に
関する事項を決定することができること(賛否不明共有者を、管理に関する意思
決定から除外することができること、ただし、変更行為については除外できない
こと)

  • 「所在等不明共有者」の持分の取得

 裁判所の決定により、所在等不明共有者の不動産の持分を、相当額の金銭を供託
して、取得することができること。

 

  • 「所在等不明共有者」の持分を譲渡する権限の付与

 裁判所の決定により、所在等不明共有者の不動産の持分を、相当額の金銭を供
託させて、第三者に譲渡することができる権限を付与することができること。

  • 所有者不明土地・建物管理制度

 裁判所は、所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土
地について、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、所有者不明
土地管理人・所有者不明建物管理人による管理を命ずる処分をすることができる
こと。

  • 管理不全土地・建物管理制度

 裁判所は、所有者による土地の管理が不適当であることによって他人の権利又
は法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合において、
必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、当該土地を対象として、
管理不全土地管理人・管理不全建物管理人による管理を命ずる処分をすることが
できること。

 

終わりに

​ 近時の立法はスピードが速く、改正範囲も多いのですが、税理士業務との関係では、少なくとも以上については把握しておいた方がよいと思います。