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本間合同法律事務所
弁護士・税理士 坂 田 真 吾

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被相続人に無断で行ったタワーマンションの購入価額と相続税評価額との差額を利用した節税行為について,重加算税の賦課決定処分が取り消された事例(国税不服審判所平成23年7月1日裁決)
(h28/1/19更新)

はじめに
  •  現在,いわゆるタワーマンション節税(建物に係る相続税評価額が通常の時価よりも相当に低額であることを利用した相続税の節税)が流行しているとされています。
     
  • ​ 本件は,タワーマンション節税を利用した納税者に対して,課税庁が,相続税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分を行った事案であり,審査請求において,更正処分は維持されましたが,重加算税の賦課決定処分は取り消されました。

     本件は非公表裁決(TAINSコード F0-3-326)ですが,相当数の雑誌等に掲載されており,財産評価基本通達の適用がないとした重要な先例であるとか,重加算税の賦課決定処分が取り消されたという意味で妥当な判断であるといったことによって,公表されるべき裁決である,とする論評もあります。
     
  •  しかしながら,本件裁決は,前提とする民法理論を誤って適用したものと言わざるを得ず,財産評価基本通達の適否を論じること自体が理論上誤っています。したがって,本裁決において財産評価基本通達を論じている部分は,何の先例性も有しません。また,本来的には,重加算税の賦課決定処分は適法であって取り消されるべきものではない事案であると思います。

     本件のような節税行為(というよりも脱税行為)を行えば,節税が効を奏しないだけではなく,重加算税を課せられるリスクがあるというべきでしょう。
  

  (なお,本稿をもとに,税務弘報平成28年7月号に,「民法上の権利関係の落とし穴ー民法上の権利関係を踏まえた精査が必要。タワーマンション節税に係る国税不服審判所平23.7.1」と題する原稿を掲載しました)

 

事実関係

 事実関係は次のとおりです(私の手元にある裁決はTAINSに掲載されているもので,情報公開請求によって多数の黒塗りがあるので一部不明瞭な点があります)。

  1. 相続等

    審査請求人Xは,被相続人Aの子であり,唯一の相続人である。

    Aは,平成19年7月4日,入院した。

    平成19年8月4日付けで,A名義で,本件マンションを代金2億9300万円で買い受ける旨の売買契約書が作成された。なお,平成19年7月20日付けの,AがXを代理人とする委任状がある。

    同月8月16日までに,A名義の預金口座から上記売買代金額が支払われた。

    Aは,同年9月3日に転院し,その後,死亡した。

    相続人であるXは,本件マンションを相続し,平成20年7月,本件マンションを2億8500万円で売却した。
     
  2. 申告,原処分

    Xは,本件マンションを相続財産とし,財産評価基本通達によって評価して相続税の申告をした。

    原処分庁は,平成22年3月,相続財産は本件マンションではなく現金(2億9300万円)であるとして更正処分及び重加算税の賦課決定処分をした。(なお,原処分庁は,異議決定において,みなし贈与(相続税法9条)の適用がある旨も追加して主張した)。
裁決の判断

 

裁決は,次のとおりの事実認定,判断をしました。

  1.  Aの症状(認知症?)等からして,Aが,Xに本件マンションの購入に関する委任をした事実は認められず,上記委任状が作成されているとしても,Aは意思無能力者であったから,当該委任契約は無効である。

     そうすると,XがAの代理人として行った本件マンションの売買契約は無権代理行為となる。
     
  2.  しかしながら,XはAの唯一の相続人であるところ,無権代理人であるXは,本人である被相続人Aの資格において無権代理行為の追認拒絶権を行使することは信義則上認められないから,無権代理行為は当然有効となり,本人である被相続人Aが自ら売買契約をしたのと同様の法律上の地位を生じることとなる。

     したがって,本件マンションは,本件相続の相続財産となるから,本件マンションの取得に充当した現金を相続財産であるとする原処分庁の主張は,その前提において誤っているものと言わざるを得ない。
     
  3.  一方で,本件マンションの評価方法については,Xは,本件マンションの購入価額と本件マンションの評価額との差額が多額であることを認識しながら,当該差額約2億3500万円について,相続税の課税価格を圧縮し相続税の負担を回避するために,被相続人Aの名義を無断で使用し,本件売買契約に及んだものであり,このような事情は,評価基本通達によらないことが正当として是認されるような特別の事情に当たる。

     そうすると,本件マンションの時価は,取得価額とほぼ同等の2億9300万円と評価するのが相当である。
     
  4.  そして,相続税の申告においてXの納付すべき税額が過小となったのは,本件マンションの評価基本通達に基づく評価額とその実勢価額に開差があることにより生じたものであり,Xの行為によって直ちに生じたものではなく,Xの行為をもって課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい又は仮装したとまで評価することはできず,請求人に対する重加算税賦課決定処分は違法であると言わざるを得ない。
何が相続財産か
  1.  このような裁決には,明らかな民法理論の適用間違いがあります。

     すなわち,裁決の前提とする事実関係からすれば,Xは,Aに無断でAと買い手との売買契約を代理したものですが,当該売買契約の効果はAに帰属しません(民法99条)。

     一方で,A名義の預金口座からは,Aに無断で売買代金相当額の出金がなされているわけですから,Aは,Xに対し,不法行為に基づく損害賠償請求権(民法709条)を有することになります。

     当該損害賠償請求権は,Aの相続開始の時点でも存在しているわけですから,本件では,Aの相続財産は,本件マンションではなく,Xに対する損害賠償請求権です。

     なお,当該損害賠償請求権は,相続によって唯一の相続人であるXが取得し,相続と同時に混同によって消滅しますが,混同によって金銭債権が消滅するとしても,当該金銭債権は相続財産となります(東京地裁平成23年5月17日判決,東京高裁平成23年11月30日判決(控訴審))。

     また,売買契約の効果はAに(Aが追認しない限り)帰属しないのに,売主はAの口座資金を原資として売買代金相当額を受領しているのですから,Aは,売主に対して,不当利得返還請求権(民法703条)も有することになります。表見代理(民法109条以下)が成立すれば売買契約の効果はAに帰属しますが,本件では表見代理は成立しないでしょう。
     
  2.  裁決は,無権代理行為は本人に帰属しないとしつつも,相続開始後に信義則上追認拒絶できないことを理由に,相続財産を本件マンションであるとしています。

     しかしながら,上記のとおり,相続財産は債権(不法行為に基づく損害賠償請求権等)なのですから,裁決は理論的に誤っていると言わざるを得ません。本件マンションは相続財産ではないから,財産評価基本通達の適否を論じる余地がありません

     なお,原処分庁は相続財産は「現金」であると主張しており,こちらの主張の方が,裁決よりもまだ民法理論に近いといえます。
     
重加算税について
  1.  このように「不法行為に基づく損害賠償請求権」等が相続財産であるということは,重加算税の判断にも影響を与えます。
     
  2.  すなわち,裁決は,相続財産が本件マンションであることを前提に,Xは本件マンションを相続財産として申告しているのだから,仮装隠ぺい行為はなかったと認定しています。

     しかしながら,相続財産は不法行為に基づく損害賠償請求権等なのですから,相続財産が本件マンションであるとして申告をしたことは,少なくとも客観的事実を異にした申告であるとは言えます。

     そうすると,当該申告が,事実の隠ぺい,仮装したところに基づくのか(国税通則法68条)が問題になりますが,裁決の認定したところによれば,Xは,Aに無断で代理人としてA名義の売買契約を締結したというのですから,Aが全くXに売買を任せたことがないのに勝手にXが売買を行い,あたかも,Aの有効な委任があったかのように装ったものであるとすれば,課税標準等又は税額の基礎となるべき事実を仮装したものと言わざるを得ないと思われます

     したがって,本来的には,本件では重加算税賦課決定処分は維持されてしかるべきものでしょう。
     
  3.  なお,仮に,AがXに対して売買契約の締結を委任するという意思表示は行っていたが,Aが意思無能力であり,結果としてXが代理人として締結した売買契約は有効な代理権限に基づかず,無権代理人によるものとして契約の効果がAに帰属しないが,Xとしては,Aが有効に委任に係る意思表示を行ったと信じていた場合はどうでしょうか。

     このような場合には,AのXに対する不法行為に基づく損害賠償請求権は生じない可能性があります。一方で,上記のとおり,Aには売買契約の効果は帰属せず,売主に対して,売買代金相当額が不当利得であるとして返還請求権を有することとなると考えられます。

     この場合に,Xが(Aの承諾の下有効に買い受けたと信じた)本件マンションを相続財産であるとして申告したならば,事実の仮装,隠ぺいは存在せず,重加算税賦課決定処分は違法となるでしょう。Xとしては(たとえ節税目的でも)本件マンションがAの承諾の下有効に売買され,本件マンションが相続財産であると信じていたのであれば,結果としてAの売買の委任に係る意思表示が無効であって本件マンションが相続財産にならないとしても,Xは何も仮装,隠ぺいしたことにはならないからです。

     そうすると,本件裁決の事例では,実は,Aに意思能力があったのか否かというだけでなく,AがXに対して売買の委任に係る意思表示を全くしたことがないのか否かという点が,重加算税の要件充足に当たって重要な事実であり,審判所としては,当該事実の有無をしっかりと調査認定しなければならないと言えます。

     このような観点から本件裁決を見ると,「Aに無断」といった認定や,委任状をAが作成したとは認められないといった認定はありますが,一方で,「仮に,本件被相続人が請求人に対し,お前に任せてある旨述べたとしても・・・同人に意思能力があったと認めることはできない」といった表現もあり,上記の事実の調査認定が不十分であるという印象を受けます。
終わりに


 審判所の裁決は,妥当な判断がされているものも多くありますが,本件のように,基礎的な民法理論を誤って適用しているものもないわけではないので,裁決(特に非公表裁決)の正当性については慎重な検証を要します。