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本間合同法律事務所
弁護士・税理士 坂 田 真 吾

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相続法の改正と課税関係その3(配偶者居住権が消滅した場合の課税関係)
(r1/10/22更新)

はじめに

 配偶者居住権は、一定の財産的価値のあるものとして、相続税を計算します。

 配偶者居住権の負担のある居住建物及び敷地の所有権については、当該負担分を控除した評価額となります。

 そうすると、配偶者居住権がその設定後に消滅した場合には、所有権から負担が除かれるので、所有者は経済的利益を受けます。

 その場合の課税関係については下の考え方が示されています(財務省『令和元年度 税制改正の解説』503頁以下)。同趣旨のことは、令和元年7月2日に発遣された「相続税法基本通達等の一部改正について(法令解釈通達)」にも書かれています。

配偶者が死亡した場合

 配偶者が死亡して配偶者居住権が消滅し、その結果として居住建物の所有者が使用・収益することができることとなっても、特段の課税関係は生じません。

 民法の規定により、予定どおりに、配偶者居住権が消滅するものであり、配偶者から居住建物の所有者に対して相続を原因として移転する財産はないからである、と説明されています。

期間の途中で、合意解除、放棄等があった場合

 配偶者居住権の存続期間の満了前に、配偶者の放棄、配偶者と所有者との間の合意解除、配偶者の用法順守義務違反による所有者からの消滅の意思表示によって、配偶者所有権が消滅する場合があります。

 その場合には、居住建物の所有者は、期間満了前に居住建物の使用・収益をすることができます。

 そうすると、配偶者居住権が消滅したことにより、所有者に使用・収益する権利が移転したものと考えられることから、相法9条のみなし贈与の規定により、配偶者から贈与があったものとみなして贈与税課税がなされます。 

租税回避ではないのかという疑問

 以上の取り扱いがどのようなものとなるかについては、話題を集めていました。

ここで、

・相続人として配偶者及び子がおり、
・相続財産として建物及びその敷地(時価5000万円)がある
という事例を考えてみます。

 配偶者居住権を用いなければ、一次相続で配偶者が相続して配偶者の税額軽減規定(相法19条の2)を用いて実質非課税とするにしても、二次相続時において子が承継する際には5000万円を課税価格に算入して相続税課税がなれます。

 この事例で、配偶者居住権を設定するとどうでしょうか。ここでは配偶者居住権の価値を2000万円とします。

  一次相続時には配偶者が2000万円の配偶者居住権を取得し、これが配偶者の税額軽減規定の適用により実質的に非課税とされつつ、子が取得する負担付き所有権は3000万円となります。

  そして、配偶者の死亡による二次相続時には配偶者居住権が相続財産とならないとすると、本来的には5000万円の価値のあるものとして相続税の課税対象となるべき資産が、一次相続と二次相続をあわせても3000万円の限度でしか課税されない、ということになります。

 このように、配偶者居住権を設定することにより、租税回避が可能となるのではないか、という問題が生じます。

  財務省及び国税庁は、上記のとおり、期間の中途で合意解除、放棄等があった場合にはみなし贈与(相法9条)として贈与税課税の対象とするとしつつ、配偶者の死亡によって消滅した場合には特段の課税関係を生じないものとしています。

  しかし、これは正当なのかは疑問です。

  そもそも配偶者居住権という制度が設けられた趣旨は、紛争性のある相続事案において、生存配偶者の居住権を確保するというものであって、富裕層にテクニカルな租税回避を認めるものではないはずです。

  上記のような租税回避は、配偶者居住権の制度趣旨とは異なる目的で濫用的にこれを設定するものであり、課税の公平を害し、不合理と言わざるを得ないと思われます。

  民事信託についても、同様に、信託受益権を元本受益権と収益受益権に分解(複層化)して租税回避を図るスキームが喧伝されることもありますが、私としては、極めて強い違和感があります。