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本間合同法律事務所
弁護士・税理士 坂 田 真 吾
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配偶者所有権の譲渡は禁止されています(新民1032条2項)。
立法の経緯をいえば、民法改正の中間試案段階では、配偶者居住権は、所有者の承諾があれば譲渡することができるとされていました。
しかし、そもそも配偶者自身の居住関係の継続性を保護するためのものであること、配偶者の死亡により消滅する不安定な権利であるために実際には売却が困難であることから、最終的な法案段階では譲渡できないこととされました。
とはいえ、実際には、配偶者居住権を設定したのち、事情が変って、配偶者が老人ホーム等に移転し、居住建物は売却したいという場合もあるでしょう。
そういう場合には、配偶者と所有者の同意によって配偶者居住権を消滅させたうえで、所有者が居住建物及び敷地を売却し、当該売却代金の一部を配偶者に対して配偶者居住権の消滅の対価として交付するという方法が考えられます。配偶者は当該対価をもって老人ホームの入居費、毎月の支払いに充てるのでしょう。
事例でいえば、居住建物及び敷地の価値が5000万円であり、配偶者居住権の価値が2000万円の場合に、所有者が、第三者に、建物及び敷地を5000万円で売却し、配偶者は所有者から2000万円を取得する、というイメージがあります。
このような場合の課税関係については、ほとんど議論されていません。
もとより私見ですが、以下、対価を支払う所有者の課税関係、対価を受領する配偶者の課税関係に分けて検討します。
まず、所有者は配偶者居住権の消滅という利益をうけています。
ところで、相続税法基本通達9-13の2は、配偶者居住権が合意等により消滅した場合において、建物等所有者が対価を支払わなかった場合に、配偶者から建物等所有者に対して贈与をみなす旨定めています。したがって、所有者が2000万円の対価を支払う上記事例では、所有者に対するみなし贈与課税は生じません。
そして、所有者の譲渡所得(収入金額5000万円)からは、次の第一の考えによれば、配偶者に支払った2000万円を取得費ないし譲渡費用として控除するべきことになると思われます(所得税法33条3項)。
次に、配偶者が所有者から受領する2000万円の課税関係はどうなるでしょうか。第一に、譲渡所得であるとする考えと、第二に、一時所得であるとする考えに分かれるものと思われます。
令和元年12月12日に公表された税制改正大綱28頁では,
・以上の譲渡所得説を採用し,
・配偶者の取得費については法改正によって一定額の計上を認める
という方向が示されました。