- はじめに
ここでは,税務紛争(再調査の請求,審査請求,税務訴訟)の弁護士費用の基本的な設定方法についてご説明します。
- 通常の民事事件の着手金と報酬金
弁護士は,依頼者にとっての弁護士報酬の明確化のため,報酬基準を設けなければなりません。
そして,かつては弁護士会で報酬基準が公定されていました。この弁護士会基準は独占禁止法に違反するおそれがあるということで廃止されましたが,現在でも多くの弁護士事務所では,当該報酬基準を用いて弁護士費用を算出しています。
当該基準では,通常の民事事件の着手金,報酬金は,次の表のとおりに算出します(これに消費税相当額が加算されます)。
簡単に言えば,経済的利益(争って勝ち取りたい,又は勝ち取った金額)の大きさに応じて,金額が変わってくるというものです。
経済的利益の額 | 着手金 | 報酬金 |
300万円以下の部分 | 8% | 16% |
300万円を超え3000万円以下の部分 | 5% | 10% |
3000万円を超え3億円以下の部分 | 3% | 6% |
3億円を超える部分 | 2% | 4% |
たとえば,経済的利益が5000万円の事件では,着手金は219万円となります。また,結果として,訴訟等で5000万円の勝訴となった場合には,報酬金は438万円となります。
私も,通常の民事事件では,この基準を用いて弁護士報酬を計算しています。
- 税務紛争での考え方
(1) 通常の弁護士が,税務紛争を受任する場合には,以上の報酬基準をそのまま適用すると思います。
しかし,私は,税務紛争で,以上の基準をそのまま当てはめるのは,あまり合理的ではないのでは場合があるのではないかと考えます。
(2) まず,税務紛争では,再調査の請求,審査請求,税務訴訟のいずれでも,勝訴率は統計上は10%程度です。
そうすると,クライアントとしては,10%しか勝てない(と一般的に言われている)のに,たとえば争う税額が5000万円であれば,上記のように,着手時に219万円の弁護士費用(着手金)を負担することになります。
具体的な事案やクライアントの経済状況等にもよりますが,クライアントにとってはかなり重い負担感なのではないかと考えます。
そうすると,処分に納得できないが,弁護士費用が高額なので,弁護士に頼みづらいので相談しない,という現象が生じる可能性があります。
しかしながら,それでは,違法,不当な課税処分を是正される機会が失われることにもなりかねません。
(3) そもそも,「着手金」は,事件の当初に発生する弁護士費用で,いわば業務の量に応じた対価です。一方で,「報酬金」は,弁護士の能力や適切な訴訟遂行等によって獲得した成果に応じた対価です。
通常の民事事件であれば,経済的利益によって業務量が異なるから着手金も高額になる,という相関関係はそれなりにあると思いますが,税務紛争は必ずしもそのような相関関係はない事案が多いと思います。
そこで,私は,着手金を経済的利益に変動させない固定制とし,通常の基準を用いた場合よりも(特に再調査の請求,審査請求において)低額な着手金となるようにしています。
なお,再調査の請求,審査請求,税務訴訟でかなり業務量が異なるので,金額はそれに応じて傾斜しています。
具体的には,次のとおりです(以下,税込)。
・再調査の請求 33万円から55万円
・審査請求 55万円から110万円
・税務訴訟 1年目 110万円から220万円
2年目以降(1年ごと)55万円から110万円
着手金をこのような固定制とした理由は次のとおりです。
第1に,上記のとおり,勝訴できるか分からないクライアントの負担感を軽減したいからです。(ただし,税務訴訟では,業務量も大きいので,相応の負担にはなってしまいます)
第2に,税務紛争についてのこれまでの自分の経験や知識量によって,他の弁護士よりも業務量を抑えることができるからです。
(4) 一方で,事件終了時の報酬金については,上記の通常の報酬基準の概ね1.5倍程度と設定しています。
端的に言えば,税務紛争の特質等からして,着手段階での費用を低くし,勝訴によって報酬を上乗せするような基準の方が合理的であるという考えに基づいて,以上の基準を設定しています。
(5) なお,以上の着手金,報酬金の方法以外にも,ご要望に応じてタイムチャージ方式を用いています。かなり高額な税額を争う場合には,報酬金まで考えるとタイムチャージ方式の方が弁護士費用の負担を抑えることができます。
(6) ただし,弁護士費用は事案の規模,難易等によって適切な額が変化するので,最終的には事案ごとに考えることになります。ご相談時に,当該事案の費用をご説明します。